著者
小池 佑二
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 文学部 (ISSN:05636760)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.138-122, 2004-03-30

16,17世紀に編纂されたアステカの文書には,スペイン人による征服前の出来事が記されているが,その中には日食の記述もしばしば見られる。それらの日食を,0ppolzer著『食宝典』と照らし合わせて,その信憑性を吟味するのが本論の第1の目的である。日食に関する記述のある文書として,Codice Aubin,'Anales de Cuauhitlan','Anales de Tlateolco', Relaciones originales de Chalco Amaquemeacanを採り上げ,そこに記録されている日食が,『食宝典』に掲載されているどの日食に当たるかを検証した。その結果,日食中に「星が全て現われた」等の誇張とも思われる表現があるにしても,大半の記述は正しいことが判明した。幾つかの記述についてはそれに相当する日食が現実には起こっていないが,それは,単なる記録の誤りか,予測したのだが,現実には起こらなかった(あるいは雨天ないし曇で見えなかった)日食を記したのではないかと推定される。次に,メキシコの先住民が,日食や月食に対してどのような観念を抱いていたかを,当時の記録から探るのが第2の目的である。彼らは,日食・月食を不吉な前兆とみなし,人間の生け贅を捧げたりもした。前述の文書では,征服後の時期についてはほとんど日食の記述が見られない。それは,征服後にはキリスト教宣教師が先住民の改宗に努め,太陽崇拝と関わる土着の風習である人身供犠を禁止したので,先住民は日食に関する記録を残さなくなったためだと考えられる。