著者
小沼 富男
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.25, 2005 (Released:2006-03-24)

インスリン療法中の糖尿病患者で、明らかな理由もなく血糖レベルが大きく変動し、血糖値が極端に不安定なパターンを示すものは、通常「不安定型(Brittle)」糖尿病患者といわれる。しばしば日常生活に支障をきたすような著しい血糖変動、すなわちケトアシドーシスや低血糖を経験する。血糖変動が全く不規則であり、食事や運動の変化に対して予想不可能な反応を示す。原因は多種多様である。1)インスリンの薬物動態の異常として、インスリン抗体、インスリン受容体障害、腎不全、肝硬変、皮下投与インスリンに対する抵抗性など、2)低血糖に対する調節反応の異常として、Somogyi効果、暁現象、無自覚低血糖など、3)消化管障害として、糖尿病性胃無力症、吸収不良症候群など、4)内分泌疾患として、先端巨大症、クッシング症候群、褐色細胞種、甲状腺機能亢進または低下症、下垂体不全、成長ホルモン単独欠損症、副腎不全など、5)慢性の感染症または炎症、6)心理障害として、詐病、偽装的インスリン注射、摂食障害、認識障害、うつ病、アルコールまたは薬物乱用など、のそれぞれが原因となる。 管理としては、まず血糖不安定性が不適切なインスリン治療法によるものか、また治療法が適切でも患者が指示どおりにしていないためか、について明らかにする必要がある。また食事の誤りの有無についても注意深く確認する。明らかな理由が見出せない場合には入院の上で、夜間低血糖や暁現象がないかを確かめる。入院中は食事、運動、そしてインスリン注射に関して再教育をし、さらに入院中のインスリン注射は看護婦が行う。入院しても血糖が安定しない場合には、前述したそれぞれの原因の残りについて検索を行う。 原因が明らかになれば、それを改善する手段を取り、それに応じて食事、運動、インスリン療法に変更を加える。強化インスリン療法を行うが、速効型または超速効型インスリン主体の頻回注射療法が中心となる。さらにCSIIが必要な場合もある。なお精神的に問題のある患者には行動療法や心理療法も有用である。