著者
佐中 眞由実
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.92, 2005 (Released:2006-03-24)

妊娠中の血糖管理は児の合併症を予防するために厳格に行わなければならない。妊娠中母体が高血糖の場合、胎児も高血糖となり、胎児の膵臓は肥大・ 増成し、高インスリン血症となる。高インスリン血症のため児では巨大児やheavy for dates(HFD)児、新生児低血糖、高ビリルビン血症、多血症、低カルシウム血症、呼吸障害などの合併症の頻度が高くなる。また児が成長した後にも、肥満やIGT・糖尿病となる確率が高いことが報告されており、子宮内環境を良好に保つことは重要である。 児の合併症予防のためには、朝食前空腹時100mg/dl以下、食後2時間120mg/dl以下、HbA1C6%以下、グリコアルブミン(GA)18%以下を目標に血糖コントロールを行うが、正常妊婦の血糖値は非妊娠時よりも低値であることを念頭において治療を行う。 このように厳格な血糖コントロールを達成するためには血糖自己測定はかかすことが出来ない。血糖値が変動しやすい1型糖尿病合併妊婦では各食前、各食後2時間、就寝前の1日7回の血糖自己測定を可能な限り毎日、2型糖尿病合併妊婦では朝食前と各食後2時間の1日4回の血糖自己測定を週に2-3回行い、インスリンを調節し、良好な血糖コントロールの達成を目指す。 妊娠中は妊娠時期によりインスリン感受性が異なるため、インスリン需要量は妊娠時期によって異なり、インスリン抵抗性が出現する妊娠中期以後には、血糖自己測定の結果を参考に、インスリンを的確に増量する必要がある。 近年、超速効型インスリンや持効型インスリンが使用可能となり、より良い血糖コントロールを達成するために選択できるインスリンが増えた。しかし妊娠中のインスリン選択に関しては、米国の薬剤胎児危険度分類を参考に、特にカテゴリーCに属するインスリンアスパルトやインスリングラルギンの使用には慎重な対応が必要と考えられる。
著者
吉田 俊秀 小暮 彰典
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.102, 2005 (Released:2006-03-24)

β3-アドレナリン受容体(β3-AR)は白色脂肪組織における脂肪分解と褐色脂肪組織における熱産生に大きな役割を果たしている。1984年に開発されたβ3-ARアゴニストは肥満動物において著明な抗肥満・抗糖尿病効果を示したが、ゲッ歯類には著効してもヒトには効果がなかった。この効果差の原因は、1989年になり、ヒトとゲッ歯類のβ3-ARの化学構造上の種差によることが明確になった(ヒトβ3-ARは408個、マウスは388個、ラットは400個のアミノ酸より構成される)。1995年には、ヒトβ3-AR遺伝子のTrp64Arg変異がピマ・インディアンにて発見され、内臓脂肪型肥満やインスリン抵抗性、更には、糖尿病とも強く関連することが明らかになり、β3-ARの体脂肪調節に果たす役割の重要性が注目された。演者らも、日本人の34%にβ3-AR遺伝子多型(Trp64Arg)が存在し、ホモ型及びヘテロ型はワイルド型に比べ、糖尿病を6年早く発症すること、糖尿病性網膜症や腎症も2から3倍多く合併すること、更には、安静時代謝量が200kcal/日減弱しており、肥満患者の減量に当たっては食事指導を通常より200kcal減らしたより厳しい食事指導をしないと痩せにくい減量困難さを持つことを見出した。一方、β3-ARアゴニストは褐色脂肪細胞に作用し、熱産生に中心的役割を果たす脱共役蛋白質1(UCP1)を増加させ、白色脂肪細胞及び骨格筋にもUCP1を発現させる働きも持つため、褐色脂肪組織の少ないヒト成人においても有効であることが期待される。近年、脂肪細胞が、レプチン、TNF-α、PAI-1といったサイトカインを分泌し高血圧や糖尿病などの発症に密接に関与していることが明らかにされた。これら生活習慣病の根本的な治療として、内臓脂肪量の減量が重要視され、抗肥満薬としてのヒトβ3-ARアゴニストの開発に期待が高まり現在までに数多くの臨床治験が進められている。しかし、ヒトの安静時代謝量を著増させるアゴニストも発見されたが、耐えがたい皮膚紅潮などの副作用が出現するため、現在は多くの製薬メーカーにて改良が加えられている段階である。また、臨床応用時に懸念されたβ3-AR遺伝子多型の有無による効果差や、慢性投与時の受容体の発現調節についても知見が得られている。本講演では、現時点でのβ3-ARに関する最新情報を述べてみたい。
著者
片桐 秀樹
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.103, 2005 (Released:2006-03-24)

肥満・糖尿病患者の増加が注目を集めているが、その治療法としては現在でも食事療法や運動療法が中心である。これらの病態ではインスリン抵抗性やレプチン抵抗性がその発症に関与している。そこで我々は、モデル動物に肥満・糖尿病を発症させた後、エネルギー消費に関わる蛋白を発現させ、これら病態の発症機構や治療効果について検討した。 脱共役蛋白UCP1(uncoupling protein 1)は、褐色脂肪細胞でエネルギーをATPに合成することなく熱として放散させる分子として知られ、またその遺伝子多型と2型糖尿病の関連についても報告されている。そこで、まず、高脂肪食により肥満・糖尿病を発症させたマウスの肝臓にUCP1遺伝子を導入したところ、約13%のエネルギー消費の亢進がもたらされた。肝臓では、AMPKが活性化・SREBP1cの発現抑制による脂肪肝の改善が認められ、さらに、このような肝における局所効果のみならず、内臓脂肪組織の脂肪蓄積の減少やレプチン抵抗性の改善といった多臓器における代謝改善効果が認められた。その結果、肥満・糖尿病・高脂血症の改善といった著明な治療効果が観察された。一方、標準餌にて飼育している非肥満・非糖尿病マウスに対しては、肝臓へのUCP1発現導入にてもエネルギー代謝は亢進せず、そのため体重や血糖値、肝や内臓脂肪組織の脂肪蓄積量にも影響を認めないという結果が得られた。このことから、肝臓内に発現した異所性UCP1は、エネルギーバランスを感知し、余剰カロリーのみを効果的に消費するが、必要カロリーについては影響を受けにくいという機序が示唆された。このことは実際の治療への応用を考えた場合、非常に好ましい結果であると考えられる。 次に、肥満・糖尿病の病態発症後の腹腔内脂肪組織におけるUCP1遺伝子導入を行ったところ、さらに強力な治療効果が認められた。高脂肪食負荷にて肥満・糖尿病を発症させたマウスの副睾丸周囲脂肪組織に組換えアデノウィルスを用いてUCP1の発現導入を試みたところ、その発現は局所的・限定的であり、全身のエネルギー消費量には有意な増加を認めない程度であったにもかかわらず、体重増加は抑制され、血糖値・血中脂質値の有意な低下、血中インスリン値・レプチン値の著明な低下を認めた。また、糖負荷試験・インスリン感受性試験・レプチン感受性試験にて、耐糖能・インスリン抵抗性・レプチン抵抗性の著明な改善が観察された。しかし、興味深いことに、皮下脂肪組織へのUCP1遺伝子導入においては、同様の発現が得られたにもかかわらず、これらの治療効果はほとんど認められなかった。このことから、腹腔内脂肪をターゲットとし、そのキャラクターを改善させる事が、メタボリックシンドロームに対する有効な治療になりうることが示唆された。 以上、本レクチャーでは、肥満・糖尿病において、細胞におけるエネルギー消費を亢進させることによる全身代謝に与える影響や病態への関与と、それを応用した新規治療法開発の可能性ついて論じてみたい。
著者
清野 弘明
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.115, 2005 (Released:2006-03-24)

1987年、ホノルルハートプログラムではブドウ糖負荷試験の1時間血糖値が高ければ高い程と冠動脈疾患発症のリスクが高まることが報告されました。2000年には、ヨーロッパ人を対象としたDECODE Studyでブドウ糖負荷試験2時間血糖値と心血管死亡率が有意の正の相関を示すことが報告されました。1996年には、2型糖尿病患者を対象としたGerman Diabetes Intervention Studyの結果では、2型糖尿病患者の食後1時間血糖値は、心血管疾患発症リスクと正の相関を示すことも報告されました。 海外の成績だけではなく、日本からも食後血糖値と心血管疾患発症についての疫学研究が報告されました。山形大学の舟形町研究(1999年)では、境界型という軽度の食後血糖上昇も心血管死亡に関係することが証明されました。また、アジア系人種を対象としたDECODA Study(2004年)の結果も同様に、ブドウ糖負荷2時間後血糖値が総死亡、心血管死亡の予測に重要であることが報告されました。 さらに2003年には、食後血糖改善薬であるアカルボースを用いた境界型から糖尿病発症を抑制できるか否かの研究であるStop-NIDDM trialにて、心血管疾患の発症抑制に関して、プラセボに比較して相対リスクが49%も低下、新規高血圧発症の相対リスクも34%低下したことが報告されました。Stop-NIDDM trialでは、IGTを対象にした研究でしたが、2型糖尿病を対象としたアカルボースとプラセボ群での52週以上追跡した7つの研究の成果を統合したメタ解析の結果では、アカルボースにより心筋梗塞の発症の相対危険度は64%と有意に低下し、全身血管イベント発症の相対危険度は35%低下していることが報告されました。 一方基礎的研究からも、グルコーススパイク(急唆な血糖上昇)が血管内皮細胞のアポトーシスを誘発することが証明され内皮細胞障害を惹起することが解りました。 以上より糖尿病患者の血糖コントロールの目標として、食後高血糖を制御し大血管発症を抑制する治療が必要となります。このためには、HbA1Cだけではなく、血糖値の動揺を示すM値を指標として治療を考えていくことも必要となります。M値を用いたSU薬、グリニド系薬の評価と、食後高血糖制御の治療戦略を考えてみたいと思います。

1 0 0 0 OA 透析

著者
栗山 哲
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.23, 2005 (Released:2006-03-24)

糖尿病透析患者の管理で重要な事は、血糖と血圧管理である。I:血糖管理 糖尿病透析患者においても血糖管理の三大原則は、食事療法、運動療法、インスリン注射などの薬物療法である。しかし、一般に腎不全の病態が比較的高カロリー食を要することや、ASOや視力障害による運動療法の制限などから、血糖管理の主体は透析療法自体とインスリン治療である。透析療法が、血糖コントロールに及ぼす影響は透析液のブドウ糖濃度が一因である。血液透析の透析液中ブドウ糖濃度は、通常100-150mg/dlに設定されている。従って、高血糖状態の患者では透析により血糖が低下し、一方、低血糖状態では血糖は上昇する。一方、腹膜透析の場合の透析液には、1.5%、2.5%、4.25%と高濃度のブドウ糖が入っているおり、この一部は腹膜から吸収され体内に入ることから血糖管理は一般的には悪化する。経腹膜的ブドウ糖吸収は1.5%2Lブドウ糖透析液では60Cal、2.5%ブドウ糖透析液2Lでは120Cal程度のエネルギーと概算される。例えば、一日に1.5%ブドウ糖濃度透析液2Lを4回交換している腹膜透析患者では、食事以外に経腹膜的に240Cal摂取されることになる。これらの患者では、摂取カロリーを若干減らすかあるいは、インスリンの増量などを考慮せねばならない。HbA1c 6.5%、FBS 120mg/dl、食後2時間血糖 200mg/dl以下を目標とする。一般に経口糖尿病薬は、体内蓄積から遷延性低血糖があり避けることが望ましい。薬物療法の原則はインスリン皮下注であり、基礎分泌と追加分泌を補う。透析性が低い長時間作用型インスリンは避けるべきである。2型糖尿病では1日2回中間型、不安定型では1日3_から_4回の強化インスリン療法が奨められる。食事療法は、カロリー摂取は30 Cal/kg/日程度とする。適切な運動量としては、激しいスポーツより軽いジョギングや歩行、軽い水中遊泳などが推奨される。 _II_:血圧管理 糖尿病透析患者では、溢水状態が強いため利尿薬やCa拮抗薬などの体液量抑制薬(V-drug)は欠かせない。一方、糖尿病のすべての病期においてACE-IやARBなどレニン抑制薬(R-drug)の脳・心・腎機能保護作用のEBMは枚挙に暇が無い。従って、血圧管理の原則としては、V-drugとR-drugの併用療法を基本とすべきである。
著者
小沼 富男
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.25, 2005 (Released:2006-03-24)

インスリン療法中の糖尿病患者で、明らかな理由もなく血糖レベルが大きく変動し、血糖値が極端に不安定なパターンを示すものは、通常「不安定型(Brittle)」糖尿病患者といわれる。しばしば日常生活に支障をきたすような著しい血糖変動、すなわちケトアシドーシスや低血糖を経験する。血糖変動が全く不規則であり、食事や運動の変化に対して予想不可能な反応を示す。原因は多種多様である。1)インスリンの薬物動態の異常として、インスリン抗体、インスリン受容体障害、腎不全、肝硬変、皮下投与インスリンに対する抵抗性など、2)低血糖に対する調節反応の異常として、Somogyi効果、暁現象、無自覚低血糖など、3)消化管障害として、糖尿病性胃無力症、吸収不良症候群など、4)内分泌疾患として、先端巨大症、クッシング症候群、褐色細胞種、甲状腺機能亢進または低下症、下垂体不全、成長ホルモン単独欠損症、副腎不全など、5)慢性の感染症または炎症、6)心理障害として、詐病、偽装的インスリン注射、摂食障害、認識障害、うつ病、アルコールまたは薬物乱用など、のそれぞれが原因となる。 管理としては、まず血糖不安定性が不適切なインスリン治療法によるものか、また治療法が適切でも患者が指示どおりにしていないためか、について明らかにする必要がある。また食事の誤りの有無についても注意深く確認する。明らかな理由が見出せない場合には入院の上で、夜間低血糖や暁現象がないかを確かめる。入院中は食事、運動、そしてインスリン注射に関して再教育をし、さらに入院中のインスリン注射は看護婦が行う。入院しても血糖が安定しない場合には、前述したそれぞれの原因の残りについて検索を行う。 原因が明らかになれば、それを改善する手段を取り、それに応じて食事、運動、インスリン療法に変更を加える。強化インスリン療法を行うが、速効型または超速効型インスリン主体の頻回注射療法が中心となる。さらにCSIIが必要な場合もある。なお精神的に問題のある患者には行動療法や心理療法も有用である。