著者
小泉 正太郎 三国 政勝
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
vol.312, pp.123-132, 1982
被引用文献数
6 2

この研究は, ここでの目的にそって, 近代的思潮を背景として住居における個性化が進む中で, 近隣関係などを通じてどのような集性としての居住現象が生じているかを明らかにし, この漁業地区における住生活の実態の中にこれからの方向性をさぐり, 不備への対応などの解析を行なったものである。住居内における個性化の動向としては, 行為の機能分化のみによる個室化ではなく, 家族関係的な面をもちながら, 近隣関係としての接客性をも含めた住行為の集約の中に得られることを知る。ここでは間取りや住居規模などについて, それぞれの類型を介しての解析を行なった。このような近隣関係をもつ中において, ともすれば閉鎖的になりがちな漁業地区ではそれぞれの個性を伸ばすための空間形成の必要なことが窺われ, 前にみた部落集会所の解析や日常の余暇的施設への無関心の事情から更にこの面の深い追求が必要とされる。また, 過密居住のこの地において, 住居が個別に更新されていくとき, その歪ともみられる面を, 近隣空間の共同利用や新築, 増改築にあたっての, それぞれの室構成の相互理解によって克服している。地縁性といい, 共同体というも, このような施設の在り方を媒介として成立するものであることを, この漁業地区においても指摘することができる。