著者
達家 清明 小浜 正江 末兼 幸子 森 大蔵
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.587-598, 1987
被引用文献数
1

かまぼこは板に付いているのが普通である.板はモミ(White fir, <i>Abies concolor</i>)の輸入材が多く用いられているが,今なおスギ板も使われている.これはスギ板の材油の香りが加熱中にかまぼこに移行し品質の向上に寄与するためといわれている.スケトウダラのすり身,スギ板付きおよびモミ板付きかまぼこについて, SDE法で全揮発性成分を, Tenax GCトラップ法でヘッドスペース成分を捕集しGC-MSで同定および定量した.同定はマススペクトルとKovátsの保持指標の一致によって,定量は1秒間隔走査で測定した全イオン強度を用いβ-Phenethyl acetateを内部標準として1点検量法で行った.<br> SDE法で137成分中113化合物を, Tenax GCによるヘッドスペーストラップ法で51成分中49化合物を同定した.これらはスギ板由来のセスキテルペン類,アルデヒド類,アルコール類,ケトン類,ピラジン類,エステル類,フラン類,炭化水素類等である.かまぼこの香りはスケトウダラの冷凍すり身中の硫化水素,ジメチルアミン,トリメチルアミンおよび臭いのいき値の低いアルデヒド類をはじめとする揮発性成分および添加されたみりん,発酵性調味液および天然エキス等の香気成分とそれらの調理効果によるバランスのとれたものと考えられる.みりんなど発酵性調味料の添加に油来する揮発性成分も市販かまぼこではその量が多く,それらはすり身とすることで失われた香味成分を補う役割を果たしている,焼くことによって生成する香りも無視できない. スギ板付かまぼこではスギ板(精油含有量0.6%)からかまぼこに移行するセスキテルペン類(C<sub>15</sub>H<sub>24</sub>およびC<sub>15</sub>H<sub>26</sub>O)は8ppmにも達し,全揮発性成分の70%を占めている.これらのセスキテルペン類の内ヘッドスペース成分として検出されるのは大部分がC<sub>15</sub>H<sub>24</sub>であってそれらの香りは強く,魚の生臭さをマスキングし香気の改善に寄与している.モミの板(精油含量0.004%)はほとんど香りがなく材の香りの移行は認められないので魚本来の香りを生かすには好都合である.