著者
小澤 幸重
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

背景:上下顎異なる形態の裂肉歯や通常の臼歯,切歯などの起源はほぼ円錐歯であることは化石試料で明らかであるが,その後の進化あるいは形態形成については上下顎の臼歯が異なる道を辿ったとされる.しかしその要因については殆ど議論が無い.この点を歯の形態形成から検討する.議論:哺乳類の歯の特徴は形態が複雑になることである.その形態形成,即ち咬頭や歯根の分化は開始点から対称に放散する.しかし顎の形成要因の制御によって各種,歯種の固有の形態となる.顎は頭部の一部であり,頭部は体の一部であるため,これらを統一的に解析すると, ①分節(集合)性,②対称(安定)性, ③周期(律動)性が一貫して流れている.即ち 1)上下顎は本来対称である.体制の対称は,相補い一つの目的達成に働く.例えば,左右対称では上下肢,脳神経,視覚,あるいは対立遺伝子(相補遺伝子),神経の相補的特殊化などであり,腸の平滑筋の多軸対称と分節の繰り返しは蠕動運動や振り子運動となる.よって上下顎の相補的関係があることが分かる.2)歯系の相補的関係は左右,そして捕食から咀嚼,嚥下までの左右,頭尾の連携の一部である.3)歯はこれに係わる咬合,裂肉あるいは咀嚼という相補的働きをする.この相補機構は機能的な連動を示すが,歯はこれに加えて形態的に上下顎が噛み合う(咬合)という互いにはまり込む形態をしめす.これを形態的相補性(Morphological complement)と名付ける.4)この視点から歯の進化に関する学説を振り返ると,形態的相補性の確立過程を明らかにしたものである.5)相補性の起源と進化は,生命が地球上に出現し環境と親和し,多細胞となって互いに接着共存し,高度な体制となり組織,器官の相補性へと分化したと考えることが出来る.皆様の御意見を頂きたい.