著者
小田 格
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.99, pp.135-164, 2021-09-30

本稿は,中華人民共和国湖南省の漢語方言を使用したラジオ・テレビ番組(方言番組)をめぐる政策を考察するものである。そこで,同省における関連政策の枠組みを確認し,従前の方言番組の放送状況を振り返り,これらを通じて得られた情報を総合的に検討することとした。その結果,導出した結論は,次の通りである。すなわち,同省では,1990年代中盤に規制通知が発出されたにもかかわらず,その後テレビで方言番組が放送されるようになった。この背景には,テレビ市場における競争環境の形成という事情があり,当局はテレビ局の新たな試みを理解・支持した。さらに,同省では,方言番組の放送が続けられたが,それが急激に増加・拡大することはなく,再び独自規制が課されるような状況にはならなかった。他方において,全国的な規制通知の運用状況を確認する限り,同省の方言番組開設に係る行政許可の審査や事後的な監督・検査は至って緩やかなものと推察される。
著者
小田 格
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.79, pp.63-116, 2014

外国人被疑者・被告人の捜査および公判に関し,従前往々にしてとりあげられてきた問題として,司法通訳が存する。本稿においては,司法通訳に関して,漢語方言が焦点となった判例および事件処理の実例を主たる素材とし,これらと学説や他の言語が焦点となった判例等との比較を通じて,被疑者・被告人の言語運用能力がいかに認定され,かつ,通訳を付すべき言語がいかに選択されるかという点に対し,社会言語学的視座から検討をくわえた。その結果,個々の事例の問題点を抽出するとともに,言語運用能力を認定するための明確な基準・方法が確立されているということはできず,また,通訳を必要とする言語運用能力の水準も一律でないという結論を導出した。さらに,司法通訳を付す言語に関しては,それが当該被疑者・被告人の第一言語でない場合にあっては,各国・各地域の言語の多様性やその使用状況の複雑性に起因する諸点に留意すべきことにも論及した。
著者
小田 格
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.223-254, 2018-09-30

本稿は,中華人民共和国上海市の上海語テレビ放送をめぐる政策の実態を明らかにし,その今後を展望するものである。そして,こうした目的の下,同市における言語政策の枠組みや言語の使用状況,上海語放送の歴史及び現状などを確認したうえで,これらの情報に検討を加え,もって次のような結論を導き出した。すなわち,同市では1980年代から上海語テレビ放送が実施されており,1990年代中盤には上海語のドラマが一世を風靡したが,しかしそれゆえ当局が規制に乗り出し,その後は不安定な状況が続いてきた。一方,ポスト標準中国語普及時代に入った同市にあっては,言語政策に関する新たなコンセプトが掲げられ,これに関連する各種施策も認められるものの,諸般の事情に鑑みるならば,上海語テレビ放送の拡大は想定しがたいところである。ただし,同国の言語政策の今後を占う意味においても,時代の先端を行く同市の動向には,引き続き注視すべきである。
著者
小田 格
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.77, pp.77-132, 2013-10-10

広東省国家通用言語文字規定は,中華人民共和国国家通用言語文字法の施行規則として,広東省人民政府により,2011年12月に制定・公布され,翌2012年3 月から施行されている地方政府規章である。本稿では,本規定の立法過程や関連報道等について記述するとともに,社会言語学的資料にもとづき,漢語方言の使用規制に関する第11条,第12条および第16条の実際の運用状況について検討をくわえた。その結果,現段階では,これらの規定に則して,なんらかの規制が課されているものとはみとめられず,かつ,関連報道や同省人民政府の対応等にかんがみるならば,ただちに規制が強化されるものとは判断できないという結論にいたった。しかし一方で,本規定の内容や立法過程等にてらすならば,現在のような状態が長期にわたり安定的なものかについては,疑問なしとすることができないことから,今後の動向にひきつづき注視していかなければならない。