- 著者
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小田 格
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- vol.89, pp.223-254, 2018-09-30
本稿は,中華人民共和国上海市の上海語テレビ放送をめぐる政策の実態を明らかにし,その今後を展望するものである。そして,こうした目的の下,同市における言語政策の枠組みや言語の使用状況,上海語放送の歴史及び現状などを確認したうえで,これらの情報に検討を加え,もって次のような結論を導き出した。すなわち,同市では1980年代から上海語テレビ放送が実施されており,1990年代中盤には上海語のドラマが一世を風靡したが,しかしそれゆえ当局が規制に乗り出し,その後は不安定な状況が続いてきた。一方,ポスト標準中国語普及時代に入った同市にあっては,言語政策に関する新たなコンセプトが掲げられ,これに関連する各種施策も認められるものの,諸般の事情に鑑みるならば,上海語テレビ放送の拡大は想定しがたいところである。ただし,同国の言語政策の今後を占う意味においても,時代の先端を行く同市の動向には,引き続き注視すべきである。