- 著者
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小田 麻代
山本 福壽
- 出版者
- 樹木医学会
- 雑誌
- 樹木医学研究 (ISSN:13440268)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.2, pp.79-84, 2008-04-30
- 参考文献数
- 18
我が国の森林土壌は,一般に弱酸性であり,特に針葉樹林では酸性土壌(pH4-5)が見られることがある.土壌酸性化の過程では,カルシウム,マグネシウム,ナトリウム,カリウムなどの陽イオン溶脱の後に,アルミニウムの滲出が生じ,それによる植物への毒性が指摘されている.作物の研究ではアルミニウム感受性の植物で,アルミニウムによるリン欠乏症などのほかに,根における細胞膜や細胞分裂への影響があることが知られている.一方で,アルミニウム耐性植物の報告もいくつかおり,チャノキやユーカリの一種は酸性土壌に適応し,アルミニウム解毒能があるとされている.我々の過去の実験では,シラカシ,ミズメ,ユーカリ(Eucalyptus viminalis),オオバヤシャブシ,クヌギ,クスノキなどでアルミニウムによる著しい発根が確認されている.そこで本研究では,クヌギ実生苗に及ぼす酸とアルミニウムの影響を,伸長成長,根の伸長,光学顕微鏡による根の細胞の観察,サイトカイニン様物質の分析により調べた.一年生のクヌギ実生苗をpH5.8の1/5濃度のHoagland培地で水耕栽培し,対照区とした.また,1/5濃度Hoagland培地にpH4.0及び2.7mMの酸とアルミニウム添加処理を行い,処理後4週間の伸長,肥大成長及び根の伸長量を計測した.同じ苗木から光学顕微鏡による観察用の根の切片を採取した.また,4週間後の各器官の乾物重量を測定した.その結果,2.7mMのアルミニウム処理によって,葉と茎の乾物重は減少した.しかしながら,対照区の根の伸長が8.5cmであったのに対し,2.7mMのアルミニウム処理区の根の伸長はおよそ31cmであった.また,2.7mMアルミニウム処理区の根の木部と師部の細胞数は増加し,水平方向の表皮細胞数も増加した.表皮細胞の直径と長さ,および表皮の幅も2.7mMアルミニウム処理区で増加し,根の直径と木部及び師部の幅も増加した.また,一部のサイトカイニン様物質にもアルミニウム処理によって増加したものがあった.これらのアルミニウムによるクヌギ実生苗の根量の増大は,根細胞にアルミニウムを蓄積し,地上部へのアルミニウム毒性の発現を抑制する機能であると予測している.