著者
小畑 二郎
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.49-77, 2013-03-29

ジョン・ヒックス(John R. Hicks)の貨幣理論と金融政策論とが,ケインズ理論からどのように発展していったかを学説史的に明らかとする.ヒックスの理論を,① 流動性の積極理論,② 貸借対照表の主体的均衡の重視,③ 短期と中期と長期に区分される多時限的金融政策の示唆,④ 金融政策の非対称性,⑤ 時間要素の重視と歴史理論,の5 点に要約する.そして,金融のフロンティア・モデルを設定して,これまでの金融理論と金融政策を歴史的に位置づける.その結果,ヒックスの貨幣理論および金融政策論は,金融資産が多様化した高度な情報化時代に対応したものであり,その点で,ケインズ理論の継承・発展であったこと,しかし金融のグローバル化の時代に対応するためには,さらなる発展が必要であるという結論が下される.
著者
小畑 二郎
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.33-71, 2014-03

この論文は,ケインズからヒックスへの資本理論の発展について,これを「歴史理論」として再評価しようとするものである.「歴史理論」とは,とくに貨幣と資本に関する経済理論は,市場経済のそれぞれの発展段階の問題状況に答えるために変化しなければならない,という後期ヒックスの考え方を採用した理論である.ケインズ経済学には資本理論がない,とハイエクは批判したが,ケインズ独自の資本理論がなかったわけではない.『一般理論』に限定してみても,その中には,投資の決定理論(第11 章)や資本の本質論(第16 章)などに関連する叙述が見出される.一方,ヒックスは,とくにその研究の後半には,貨幣理論とともに資本理論を主要な研究テーマとしていた.初期の頃にはケインズ・ハロッド型のストック・フローモデルを継承し発展させたが,晩年には,独自の新オーストリア理論へと研究を進展させていった.そして最終的には,資源節約型の新技術の開発によって,質の高い労働を雇用する「新産業主義」への経済発展を展望するに至った.このようなヒックスの資本理論の発展そのものが彼自身の経済思想を表現するとともに,また現代資本主義経済にかんする歴史理解をも示すものであった.この論文では,このようなヒックスの展望に基づいて,彼自身の資本理論とケインズ理論とを比較・検討することを通じて,現代の資本理論もしくは成長理論の歴史的発展を再検討する.そして,貨幣理論や金融政策によっては,十分に取り扱うことのできなかった長期の経済分析や経済史理解のために,ケインズ理論からヒックスの資本理論への発展が参考になること,また資本移動のグローバル化の進展した現代の経済分析にとっても,資本理論の発展が示唆を与えることについて論じる.