著者
二木 亮 高山 正伸 阿部 千穂子 小西 将広 陳 維嘉 長嶺 隆二
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100284, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】 人工股関節全置換術(以下、THA)後の股屈曲角度は術後日常生活活動(以下、ADL)動作との関連が強いとされている。そのため術前より術後屈曲角度を予測できれば、術後理学療法における可動域獲得の指標となるだけでなくADL動作指導の参考となる。THA後の股屈曲角度を予測した報告は少なく、改善率を用いて予測した報告は見当たらない。そこで本研究の目的はTHA後早期の股屈曲角度を改善率によって予測が可能であるか検討することである。【対象と方法】 対象は2009年6月から2012年10月までに当院で施行したTHA151例157股のうち、変形性股関節症以外でTHAとなった症例、後側方進入法以外のTHA、再置換術を行った症例を除外した初回THA71例71股とした。内約は年齢68.0±8.6歳、男性7股、女性64股であった。全例とも機種はJMM社製 Kyocera PerFix 910 Seriesであった。カップ設置角度の平均値は前方開角12.3±6.0度、外方開角43.2±6.0度であった。 後療法は術翌日より全荷重が許可され、疼痛に応じて自己他動または他動運動での関節可動域運動を開始した。評価項目は術前・術後3週の股屈曲角度とした。角度の計測は他動にて柄の長いゴニオメーターを使用し日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の方法に準じて1度単位で測定した。改善率は術後3週角度/術前角度×100にて算出した。 統計学的検定は従属変数を改善率、独立変数は年齢、体重、術側術前角度、反対側術前角度としステップワイズ法により回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的と内容を説明し同意を得た。【結果】 術前屈曲角度の平均値は術側89.1±16.8度、反対側104.2±19.3度、術後3週のそれは術側88.8±8.1度、改善率は103±20.2%と術後3週での屈曲角度は術前とほぼ同等まで改善していた。改善率は術前角度が良好であるほど低くなり、術前角度が不良であるほど高くなる傾向であった。ステップワイズ法による回帰分析の結果、改善率に影響を与える因子として術側術前角度が採用され回帰式にて表された。数式は[改善率=197.012-1.054×(術側術前角度)]、決定係数は0.77であった。【考察および結論】 THA後の股屈曲角度を予測した報告ではオシレーション角、カップの外方開角、前方開角、ネックの前捻角、ネック水平面からの角度によって人工関節自身の可動域を予測した吉峰らの報告が知られているが、臨床的には予測された人工関節自身の可動域と同等の可動域を獲得することが困難である。そのため軟部組織による影響を考慮した臨床的可動域の予測が必要であると考えられる。 THA後の臨床的屈曲可動域を予測する因子としては術側術前角度に加えて反対側角度を用いた報告も見られるが、改善率を用いた本研究では術側術前角度のみで予測が可能であった。また今回得られた回帰式は決定係数が0.77と当てはまりがよく、諸家らの報告と比べても優れた結果であった。THA後早期の股屈曲角度には術側術前角度が最も影響していたことから、術前はもちろんのこと保存期からの理学療法の関わりが術後の良好な可動域改善に重要であると思われる。 THA後の靴下着脱動作や爪切り動作の獲得はADLの向上において不可欠であると考えている。筆者らは靴下着脱動作を開排位にて獲得するためには屈曲85度以上もしくは屈曲+外旋110度以上が必要であると報告した。今回得られた回帰式を用いると術前屈曲70度であれば改善率が120%となり術後3週で屈曲86度に達すると予測され、開排位での靴下着脱動作の獲得が期待できる。一方で術前屈曲角度が70度未満である場合でもあらかじめ開排位以外の靴下着脱方法を選択して指導することも可能である。当院の退院時期は3~4週間が目安であるため本研究では術後評価日を3週と設定した。しかしTHA後の股屈曲可動域は術後1年まで改善が見込まれるとの報告もあり、術後3週で動作を獲得できていない症例であっても術後1年までに可動域改善による動作獲得は可能であると考えられる。そのため今後は長期成績について改善率から予測可能であるか検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から改善率はTHA術後早期の股関節屈曲可動域の予測に有用であることが明らかとなった。今後は長期的な検討が必要である。