著者
山田 浩平 小野 かつき
出版者
国立大学法人愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.75-81, 2012-03-31

本研究は小学校の体育科保健領域で学習する「病気の予防」の「病原体がもとになって起こる病気の予防」の単元におけるスコープ(scope)とシークェンス(sequence)を検討するための第1段階として、保健学習の内容の体系化のための資料を得るために児童の風邪の原因と予防に関する認識について調査を行った。 調査は2010年7月に愛知県内の公立A小学校6年生4クラスの143人の児童を対象に行い、調査内容はイギリスのCommon Cold Research Unit(CCRU)での実験を参考に作成した。調査項目は、児童が健康の成立条件である3要因(宿主、感染経路、病原体)と風邪の罹患についてどのように捉えているか、また風邪の予防法についてどのような知識を持っているかであった(風邪の原因について3項目、風邪の予防法について2項目)。 調査の結果、無菌の部屋で健康な人に寒冷刺激を与えるという設問に対して、その人が風邪に罹患したか否かを尋ねたところ、「風邪に罹患しない」、しかも「病原体がいない」、「病原体は体内で自然発生しない」と正しく答えた児童は全体の8.7%にすぎなかった。さらに、風邪の原因に対する質問で全て正解した児童のうち、半数以上がこの認識を風邪の予防法に関連づけられていなかった。 今後は、児童の風邪の原因や予防に関する知識と風邪の予防行動が結びつくように、教育内容の範囲として歴史的経緯や実験結果、例えばCCRUでの風邪の罹患に関する実験やスピッツベルゲン島における風邪の発生に関する調査結果などを教材化し、急性伝染性疾患の予防には健康成立条件である主体(宿主)、感染経路(行動)、病原体(環境)の3要因からの対処が必要であることを理解できるようにすることが望まれる。