著者
志水 廣
出版者
国立大学法人愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.77-83, 2015-03-31

小学校の児童が算数を学ぶ上で,算数科にかかわる数学言語(算数語彙)について,どの程度正確に理解しているかについて調査した。調査分野は,小学校下学年,「数と計算」の領域について算数教科書に登場する算数の用語・記号とそれらを規定する言語も含めて算数語彙とした。1つの算数語彙に対して5問の選択肢を用意して児童に選択させる問題(語彙テスト)を開発した。調査問題は,予備調査(175名)に基づき本調査(975名)を実施した。その結果,算数語彙に対して理解度の低い問題が見つかった。例えば,1年生の語彙「3人に2まいずつ」の正答率は66.9%,2年生の語彙「4この2つぶん」の正答率は18.1%,3年生の語彙「3人に分ける」の正答率は59.4%,語彙「はした」の正答率は52.9%であった。
著者
長谷川 哲也 内田 良
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-9, 2011-03-31

高等教育研究と図書館研究において長らく続いてきた研究上の分断は、大学図書館の研究を自己完結的なものへと押しやってきた。「大学図書館の社会学」の構想は、大学図書館を大学あるいは社会全体のなかに位置づけること、また単純集計にとどまらない統計分析を用いることから、大学図書館の諸相を全体関連的に描出することを企図する。本研究の主題「高等教育機関における図書館評価」は、「大学図書館を大学あるいは社会全体のなかに位置づけること」に重点を置きながら、大学図書館の評価について考察する。とくに「誰が評価するのか」という評価主体の視点から評価の力学を読み解き、評価の構造を体系的に整理していく。その整理からは、今日の認証評価制度のもとで、第一に、図書館界が先導してきた自己点検・評価の議論が一定の落ち着きをみせるなか、図書館評価が大学評価の一部としての性格を強めてきたこと、そして第二に、基礎的データに評価の関心が絞られ、さらにその限られたデータが大学本体の存続と関わって重大な意味をもつようになったことが見出された。
著者
内田 良
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.95-103, 2011-03-31
被引用文献数
2

死亡事故を防ぐには、まずもって死亡事故の研究が不可欠である。本研究の目的は、学校管理下における柔道の死亡事故に関して、その実態を明らかにし、事故防止の留意点を引き出すことである。事故実態の分析からは、主に次の知見が得られた。第一に、柔道は死亡件数が多いだけでなく、死亡確率も高い。第二に、死亡事例の多くは初心者で発生している。第三に、柔道固有の動作から死に至るケースが多く、とくに頭部外傷による死亡が目立つ。2010年は、柔道事故防止の元年となった。しかし学校現場においては、柔道事故に対する危機意識はほとんど共有されていないのが現状である。中学校での武道必修化が目前に迫っているだけに、頭部外傷に関する医学的知見をはじめとして、事故防止の知識や方法が早急に学校現場に伝えられなければならない。
著者
石川 恭 成瀬 麻美
出版者
国立大学法人愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.17-26, 2014-03-31

人間の性に関することがらは、昔から秘められ閉ざされた世界にあった。人々の性行動は、何かしら後ろめたさをもって見られていたからである。そのため近代社会において、人々の性行動に関する学術的な研究はほとんどない。オランダも例外ではなく、20世紀後半に至るまで人々の性行動の実態を客観的に知ることはできなかった。キリスト教の教義において、性に関わる婚前行為は罪だと考えられていたからである。しかし産業革命以降、近代化が進む中で、人々の価値観は多様化し、キリスト教の教義を尊守する伝統的な価値観をもった人は少なくなったと思われる。それにより、人々の性行動も解放化に向かったのではないか。このような疑問から、近代化と人々の性行動の関係について産業化の視点から取り組んだ。まず、オランダにおける宗教人口を調べ、人々の宗教離れについて検討した。次に、社会生活における人々の性行動を調べるとともに、工場労働者の性に関する言動を明らかにした。第3に、非嫡出子から見た人々の性行動について産業化の視点から分析した。いずれも限られた資料からの文献研究である。その結果、人々は社会の近代化とともに宗教生活から離れ、次第に個人の価値観に基づいた生活を営むようになった。近代化が進み、都市部で工場労働者が増加すると、人々の性行動は解放的になった。また、非嫡出子は、産業化が進んだ都市部の方が農村部より多かった。これは都市部において社会的統制が弱くなったためと考えられる。だが、これによって近代化がそのまま人々の性行動を解放的にしたとは言い切れない。地域性や、避妊行為、どのレベルでの性行動を性の解放化と捉えるかなどについて疑問が残るからである。
著者
山田 浩平 小野 かつき
出版者
国立大学法人愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.75-81, 2012-03-31

本研究は小学校の体育科保健領域で学習する「病気の予防」の「病原体がもとになって起こる病気の予防」の単元におけるスコープ(scope)とシークェンス(sequence)を検討するための第1段階として、保健学習の内容の体系化のための資料を得るために児童の風邪の原因と予防に関する認識について調査を行った。 調査は2010年7月に愛知県内の公立A小学校6年生4クラスの143人の児童を対象に行い、調査内容はイギリスのCommon Cold Research Unit(CCRU)での実験を参考に作成した。調査項目は、児童が健康の成立条件である3要因(宿主、感染経路、病原体)と風邪の罹患についてどのように捉えているか、また風邪の予防法についてどのような知識を持っているかであった(風邪の原因について3項目、風邪の予防法について2項目)。 調査の結果、無菌の部屋で健康な人に寒冷刺激を与えるという設問に対して、その人が風邪に罹患したか否かを尋ねたところ、「風邪に罹患しない」、しかも「病原体がいない」、「病原体は体内で自然発生しない」と正しく答えた児童は全体の8.7%にすぎなかった。さらに、風邪の原因に対する質問で全て正解した児童のうち、半数以上がこの認識を風邪の予防法に関連づけられていなかった。 今後は、児童の風邪の原因や予防に関する知識と風邪の予防行動が結びつくように、教育内容の範囲として歴史的経緯や実験結果、例えばCCRUでの風邪の罹患に関する実験やスピッツベルゲン島における風邪の発生に関する調査結果などを教材化し、急性伝染性疾患の予防には健康成立条件である主体(宿主)、感染経路(行動)、病原体(環境)の3要因からの対処が必要であることを理解できるようにすることが望まれる。
著者
有働 裕 小原 亜紀子
出版者
国立大学法人愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.55-61, 2014-03-31

本論では、音読を、文章理解、文章記憶に有効な活動と考え、聴解、黙読、つぶやき読みと比較検証した先行研究を考察している。その中で、音読活動は、他の活動と比較して、逐語記憶、音韻記憶、内容理解等において、それぞれ優位にあると認められる場合はあるものの、結果にばらつきがあり、検証の余地があるということが明らかになった。これは、対象が幼児から大人と幅広く、また、実験の課題として使用されている題材が単語から長文読解と多岐にわたるためであると考えられる。特に課題文の構造と音読の効果を検証することは、音読に適した教材選択につながると考える。また、音読の実践の状況を知るために、学校での音読授業の受け手の立場にあった学習者(大学学部生)を対象としたアンケートを実施した。その結果、学習者が受けてきた音読活動と音読指導に対して好意的に受け止められてはいるものの、「大きな声で読む」「適切なスピードで読む」等の形式に関する指導を受けた印象が強いという傾向が見られた。この好意的な受け止め方の要因をとらえるとともに、さらに内容理解に効果のある音読方法を模索したい。
著者
三上 真葵 中妻 雅彦
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.127-133, 2011-03-31

PISA調査や、全国学力状況調査では自分の考えや理由を述べることが苦手な生徒が多いという結果が出ている。これまでの社会科の授業では、知識の暗記に終始してきたことが一つの原因であると考えられる。千葉県歴教協会員で、中学校社会科教師であった安井俊夫は、「スパルタクスの反乱」の一連の授業実践をとおして、生徒が、奴隷たちに共感でき、そのイメージを描けるようにするような教材や発問を提示することで、「自分の目」で歴史を学ぶことができ、それは暗記で終わらない「自分の知識」を残すことになると主張した。この実践では、教師側の意図の範囲内のみでの教材選択がされていることや、歴史学という面からどのように折り合いをつけるかということが、問題点としてあげられている。本稿では、これらの評価や課題に学び、さらに改善できるような教材と発問を近代史の授業を例に提案する。
著者
稲葉 みどり
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.29-37, 2011-03-31

本稿では、プロセス・ライティングの手法を取り入れて行った日本語科目(留学生対象)の授業方法や指導手順を紹介し、外国語教育における効果的なライティング指導の方法を考察した。「留学の目的及び将来への抱負」をテーマとする奨学金応募のエッセイの作成を取り上げ、初稿から最終稿に至るまでの指導、及び、改稿の過程を分析した結果、「修正したほうがよい理由をはっきり説明する」、「内容に関する簡単な問いかけをする」、「修正方法を具体的例とともに示す」等が指導生のライティング活動を活性化し、内容構成力を向上させる上で効果的なフィードバックの方法であることがわかった。また、指導生は授業を通じて何度も書き直すことの重要性や内容を深める方法を学んだことも明らかになった。
著者
吉岡 恒生
出版者
愛知教育大学
雑誌
愛知教育大学教育創造開発機構紀要 (ISSN:21860793)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.183-190, 2011-03-31

本論は、臨床心理士の経験と知識を踏まえて、教育現場の問題に主体的に参画し、教育の場における問題を検討していくという臨床教育学の視点から、「叱ること」について論じたものである。実践報告という形式を取り、ある小学校での保護者向けの子育て相談会と教員向けの研修会において、筆者が講師として「叱ること」について当事者との対話を通して検討していった。保護者との間では、「きょうだいのなかで叱ること」「どこまでを叱るべきなのか」について、教員との間では、「叱ったあとの失敗感を分かち合う」「叱られたら子どもも苦しむ」「子どもの変容についていけない大人たち」「子どもの言い訳を封じてはいないか」「叱ることができない悩み」「発達障害児への特別な叱り方はあるのか」「それぞれの子どもに応じた叱り方」「自分のことを棚に上げていないか」などについて検討がなされた。