著者
川口 真帆 小野 亜佳莉 神谷 万里子 水上 修作 向井 英史 川上 茂
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】mRNA封入脂質ナノ粒子(mRNA-loaded Lipid Nanoparticle; mRNA/LNP)は、新型コロナウイルスのワクチンとして筋肉内投与により世界的に使用されている。mRNA/LNPは生体内で分解されやすいmRNAを安定に保持し細胞質まで送達できるという利点があり、その機能性はmRNA/LNPの脂質構成に起因する。一方で、LNPは肝への集積、高いタンパク発現が知られており、肝毒性が懸念される。これは、筋肉内投与されたLNPが筋肉から肝臓へ到達するまで血中で安定な状態であるためと考えられる。そこでLNP構成脂質のうち、脂質膜の安定性に寄与するコレステロールの含有量を減らすことでLNPを不安定化し、筋肉から肝臓へ到達する前に崩壊させることができるのではないかと仮説を立てた。本研究では、コレステロール含有量を減少させたmRNA/LNPを作製し、細胞およびマウス筋肉内に投与後、タンパク発現を比較検討した。【方法】脂質組成のうちコレステロール含有量を60, 40, 20, 10 mol%としたluciferase mRNA/LNPを作製し、その物性について粒子径とmRNA封入率の評価を行った。作製したLNPをmRNAが0.1 µg/wellとなるようにHepG2細胞に添加し、luciferase発現を評価した。次に、ddY雄性マウス右大腿部筋肉に2 µgのmRNA/LNP投与し、4.5時間後に筋肉と肝臓を摘出し、luciferase発現を評価した。【結果】Luciferase活性測定の結果から、細胞ではコレステロール含有量の異なるmRNA/LNP間でluciferase発現は同程度であった。一方、マウスではコレステロール含有量の低いmRNA/LNPにおいて、肝臓での遺伝子発現と相対的に比較して、投与部位である筋肉でluciferase発現が有意に高かった。【結論】LNPの脂質組成のうちコレステロール含有量を減少させると、肝臓におけるluciferase発現を抑えられることが示唆された。本結果は、今後のmRNA/LNPの製剤設計において有益な基礎的知見となることが期待される。