著者
日高 佑紀 森 大樹 吉 赫哲 川上 茂樹 一川 暢宏 有薗 幸司
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-34, 2014-03-31 (Released:2014-05-16)
参考文献数
23

パーソナルケア製品に頻用されている合成香料は、脂溶性が高く、生体内に高濃度で濃縮されることが憂慮される。しかし、これらの環境汚染状況や生体影響への情報は少ない。今回、合成香料のうち、多環ムスク化合物である6-acetyl-1,1,2,4,4,7-hexamethyltetraline (AHTN) 及び1,3,4,6,7,8-hexahydoro-4,6,6,7,8-hexam ethylcyclopenta-γ-2-benzopyran (HHCB) 並びにHHCB の代謝物HHCB-lactone、さらに[1,2,3,4,5,6,7,8- octahydro-2,3,8,8,-tetramethylnaphtalen-2yl]ethan-1-one (OTNE) の下水処理場における挙動とその動態につ いて調査した。その結果、下水処理施設の流入水においてAHTN 2.3 µg/L、HHCB 4.8 µg/L、HHCB-lactone 1.2 µg/L、OTNE 5.4 µg/Lが検出され、放流水では、AHTN 0.7 µg/L、HHCB 0.9 µg/L、HHCB-lactone 0.9 µg/L、 OTNE 0.7 µg/Lの濃度で検出された。下水汚泥においてはAHTN 2.1~9.3 mg/kg、HHCB 3.9~11.7 mg/kg、HHCB-lactone 1.8~3.4 mg/kg、OTNE 2.0~9.3 mg/kgの範囲で検出された。下水汚泥の各処理過程においては、AHTN、HHCB及びOTNEが活性汚泥中で濃度が低下するのに対し、HHCB-lactoneは下水処理過程を通して濃 度の大きな変動は見られなかった。さらに、下水処理場からの多環ムスク化合物の環境への排出量は、流入量の約60 %が放流水及び下水汚泥として環境中へ放出されること、下水処理過程での分解消失率は流入量の除去率は40 %弱であることが判明した。
著者
川口 真帆 小野 亜佳莉 神谷 万里子 水上 修作 向井 英史 川上 茂
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】mRNA封入脂質ナノ粒子(mRNA-loaded Lipid Nanoparticle; mRNA/LNP)は、新型コロナウイルスのワクチンとして筋肉内投与により世界的に使用されている。mRNA/LNPは生体内で分解されやすいmRNAを安定に保持し細胞質まで送達できるという利点があり、その機能性はmRNA/LNPの脂質構成に起因する。一方で、LNPは肝への集積、高いタンパク発現が知られており、肝毒性が懸念される。これは、筋肉内投与されたLNPが筋肉から肝臓へ到達するまで血中で安定な状態であるためと考えられる。そこでLNP構成脂質のうち、脂質膜の安定性に寄与するコレステロールの含有量を減らすことでLNPを不安定化し、筋肉から肝臓へ到達する前に崩壊させることができるのではないかと仮説を立てた。本研究では、コレステロール含有量を減少させたmRNA/LNPを作製し、細胞およびマウス筋肉内に投与後、タンパク発現を比較検討した。【方法】脂質組成のうちコレステロール含有量を60, 40, 20, 10 mol%としたluciferase mRNA/LNPを作製し、その物性について粒子径とmRNA封入率の評価を行った。作製したLNPをmRNAが0.1 µg/wellとなるようにHepG2細胞に添加し、luciferase発現を評価した。次に、ddY雄性マウス右大腿部筋肉に2 µgのmRNA/LNP投与し、4.5時間後に筋肉と肝臓を摘出し、luciferase発現を評価した。【結果】Luciferase活性測定の結果から、細胞ではコレステロール含有量の異なるmRNA/LNP間でluciferase発現は同程度であった。一方、マウスではコレステロール含有量の低いmRNA/LNPにおいて、肝臓での遺伝子発現と相対的に比較して、投与部位である筋肉でluciferase発現が有意に高かった。【結論】LNPの脂質組成のうちコレステロール含有量を減少させると、肝臓におけるluciferase発現を抑えられることが示唆された。本結果は、今後のmRNA/LNPの製剤設計において有益な基礎的知見となることが期待される。
著者
楠 比呂志 長谷 隆司 佐藤 哲也 土井 守 奥田 和男 上田 かおる 大江 智子 林 輝昭 伊藤 修 川上 茂久 齋藤 恵理子 福岡 敏夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.25-30, 2006
参考文献数
29
被引用文献数
3 3

国内の3施設で飼育されていた18頭の成熟雄チーターから,経直腸電気射精法で採取した31サンプルの精液の性状を分析した。なお18頭中13頭は,繁殖歴がなかった。18頭の雄の精液の性状は,精液量が0.91±0.11ml,精液pHが8.1±0.1,総精子数が32.6±5.4百万,生存精子率が84.9±1.9%,精子運動指数が53.7±3.8,形態異常精子率が66.1±3.4%,正常先体精子率が68.5±5.1%で,これらの値は,他のチーターにおける報告値の範囲内であった。繁殖歴がある雄とない雄の精液を比較したところ,先体正常精子率以外のパラメーターについては,両者間で有意な差はみられず,繁殖歴がない雄の正常先体精子率(59.8%)も致命的なほど低くはなかった。以上の結果から,飼育下の雄チーターにおける低受胎の主因が,精液性状の低さである可能性は少ないと考えられた。
著者
斉藤 理恵子 川上 茂久 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.115-118, 2004 (Released:2018-05-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

南アフリカから搬入された5頭のケープハイラックスProcavia capensisから検出された内部寄生虫を検討したところ,Inermicapsifer hyracis, I.cf. beveridgei, Grassenema procaviaeおよびEimeria dendrohyracisが検出された。I.hyracis以外は日本の飼育下ハイラックス類では初めての記録であった。
著者
竹鼻 一也 川上 茂久 Chatchote Thitaram 松野 啓太
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.17-27, 2022-03-01 (Released:2022-05-02)
参考文献数
46

若齢アジアゾウに致死的出血病を引き起こす原因とされるElephant endotheliotropic herpesvirus(EEHV)は,世界中のゾウ飼育施設において多くの死亡例をもたらし,直近20年の間で飼育下アジアゾウの最も主要な死亡原因となっている。EEHVはゾウを自然宿主とし,他のヘルペスウイルス種と同様に潜伏感染する。若齢ゾウにおいては,何らかの原因で血中ウイルス量が異常上昇することに伴い,致死的出血病に至ることがある。発症後の治療には反応が乏しく,有効な治療法が確立されているとは言い難いものの,発症初期に積極的な治療を行うことで救命率向上が認められる。そのため,飼育施設においては日常的な検査体制の確立による早期診断および早期治療開始が求められる。
著者
神谷 万里子 松本 眞 川口 真帆 水上 修作 向井 英史 川上 茂
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染・重症化予防において、新規プラットフォームであるmRNA封入脂質ナノ粒子(mRNA-LNP)ワクチンの高い臨床効果が実証された。mRNA-LNPワクチンの保存方法について、企業から提示される情報はあるが、様々な条件下での保存安定性についての系統的な情報はほとんどない。そこで我々はmRNA-LNPの物理化学的性質や細胞レベルでの発現を指標に、mRNA-LNPの安定性と物理化学的性質、タンパク質発現との相関について評価した。【方法】ホタルルシフェラーゼmRNA(fLuc-mRNA)を封入したLNPをマイクロ流体法により調製した。保存条件の検討項目は保存温度、振動条件、光安定性、バイアルからの採取とした。各条件下での物理化学的性質は、平均粒子径・多分散指数PdI・mRNA封入率により評価した。また、ヒト肝がん由来細胞株HepG2細胞に対してfLuc-mRNA-LNPを添加し、ルシフェラーゼ発現量を比較した。【結果】保存温度の検討では、対照群とした4 ℃保存群におけるLNPの平均粒子径100 nm程度に対し、-80 ℃保存群では平均粒子径1,500 nm程度の凝集体が認められた。同様に振動条件の検討では、ボルテックス5分間振動群で平均粒子径700 nm程度の凝集体が認められた。これらの物理化学的性質が変化したmRNA-LNPについてはタンパク質発現活性が有意に低下した。一方、光安定性の検討において、光安定性試験ガイドライン規定の120万lx・hr曝露群ではmRNA-LNPの物理化学的性質の変化は認められなかったが、タンパク質発現活性は顕著に低下した。【考察】mRNA-LNPのタンパク質発現活性は、温度や振動で変化したLNPの物理化学的性質の変化だけでなく、内封mRNAの生物活性が変化した可能性が考えられる光曝露の影響にも相関することが示された。mRNA-LNPとしての保存安定性において、LNPの物理化学的性質に加えて、mRNA-LNPのタンパク質発現活性を同時に評価する重要性が示唆された。
著者
渕上 由貴 川上 茂
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.66-68, 2017-01-25 (Released:2017-04-25)
参考文献数
7
著者
中西 秀之 樋口 ゆり子 川上 茂 山下 富義 橋田 充
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.129, no.12, pp.1433-1443, 2009-12-01 (Released:2009-12-01)
参考文献数
58
被引用文献数
3 3

Transposons are mobile genetic elements that move between or within vectors and chromosomes. For the transposition, an enzyme called transposase recognizes transposon-specific terminal inverted repeat sequences (IRs) located on both ends of transposons, and remove them from their original sites and, integrates them into other sites. Because of this feature, transposons containing genes of interest between their two IRs are able to carry the genes from vectors to chromosomes. Transposons are promising systems for chromosomal integration because they can not only integrate exogenous genes efficiently, but also be transfected to a variety of cells or organs using a range of transfection methods. In this review, we focused on the therapeutic application of transposons. A few transposons can integrate transgenes into mammalian chromosomes. They have been used in preclinical studies of gene therapy and cell therapy. In addition, they have recently been used for generation of induced pluripotent stem cells. Transposon-based integrative vector systems have two components. One is the transposon containing transgenes, and the other is the expression cassette of the transposase. Both viral and non-viral vectors have been used to deliver these two components to mammalian cells or organs, and sustained transgene expression has been achieved. Transposon-mediated sustained transgene expression has also produced therapeutic effect in disease models of hereditary and chronic diseases. Although transposon-based integrative vector systems have problems, such as insertional mutagenesis, studies to overcome these problems have been progressing, and these vector systems will become indispensable tools to cure refractory diseases.
著者
萩森 政頼 川上 茂 向 高弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.688-692, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
24

亜鉛は重要な生体機能に関与することから,その動態や機能が注目されており,特に近年,遊離亜鉛イオンに関して分子レベルからの解明が望まれている.蛍光イメージングは検出感度の高さと簡便さから有用な方法であり,これまでに様々検出原理に基づく亜鉛蛍光プローブが開発されている.本稿では,遊離亜鉛イオンの動態や機能の視覚的な解析を可能にする蛍光プローブの開発について,著者らの低分子量亜鉛蛍光プローブとともに紹介する.
著者
橋田 充 山下 富義 西川 元也 川上 茂
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

癌細胞の動態、存在状態の多様性および治療薬の癌病巣への到達性の制御の困難さのため、普遍的に適用可能な治療法は未だ確立されていない。本研究では、まず、癌増殖・転移過程の非侵襲的解析に必要不可欠な基盤技術であるバイオイメージングによる可視化および定量法を確立した。さらに、DDSのコンセプトに基づき、有効な癌治療薬および遺伝子医薬品の送達システムの開発および治療への応用を行った。
著者
米田 一裕 木下 こづえ 林 輝昭 伊藤 修 大峡 芽 奥田 和男 川上 茂久 谷口 敦 奥田 龍太 石川 達也 佐藤 梓 池辺 祐介 只野 亮 都築 政起 国枝 哲夫 楠 比呂志
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.133-141, 2010-05-25

動物園などでの飼育環境下にある動物の遺伝的多様性を維持することは重要な課題である.本研究では,イエネコのマイクロサテライトマーカーを用いて,飼育環境下の62個体のチーターの遺伝的多様性と血縁関係を解析することを試みた.チーターのDNAより17座位のマーカーの増幅を試みた結果,すべてのマーカーで増幅産物が認められ,そのうちの15座位はチーターにおいても多型性が確認された.これらの座位における平均の対立遺伝子数は4.65,ヘテロ接合度は0.6398,多型情報量は0.5932であり,本集団の遺伝的多様性は,野生のチーターの集団と比べて大きな違いは無かった.また,総合父権否定確率は0.999733であり,実際にこれらのマーカーを用いて正確な親子判別が可能であることが確認された.各マーカーの遺伝子型を基に62個体のクラスター解析および分子系統樹の作成を行ったところ,これらの個体は,いくつかの集団に分類され,各集団は基本的に家系と一致していた.以上の結果は,今後わが国のチーター集団の遺伝的多様性を維持する上で重要な知見であると考えられた.
著者
白井 純宏 川上 茂生 吉田 正貴 上田 昭一 中村 武利 本田 由美
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.90, no.10, pp.847-850, 1999-10-20
被引用文献数
3 1

透析患者に合併した膀胱肉腫様癌の1例を経験したので報告する.症例は65歳女性.平成8年3月,慢性糸球体腎炎による腎不全のため血液透析導入となった.平成9年6月より肉眼的血尿が出現し,膀胱鏡検査にて右側壁から後壁にかけて広範囲に隆起性病変を認め,TUR-Btによる病理組織診はsarcomaであった.臨床病期T3bN0M0,StageIIIの診断にて同年9月10日,膀胱子宮全摘術を施行した.最終的な病理組織診断は移行上皮癌(Grade3)の成分と異型紡錘形細胞の増殖をみる肉腫様の部分とで構成された肉腫様癌(sarcomatoid carcinoma)であった.透析患者に合併した膀胱原発の肉腫様癌は極めて稀であり,調べ得た限りでは本症例は本邦2例日である.
著者
中塚 次郎 竹中 克行 横山 正樹 ヒガ マルセーロ 立石 博高 金七 紀男 山道 佳子 宮崎 和夫 川上 茂信 砂山 充子
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

地域の形成にはたんに経済的要因や地理的要因だけではなく、その地域に流入してきた人間集団の存在や、そこから出ていった移民たちの意識などが重要な役割を果たしている。たとえば、EU内を移動しそこを生活空間とする一方で、EU外の集団との差異を経験することで、人々はEUをひとつの「地域」と認識する、といった具合にである。このことは、国家内の「地域」にもあてはまる。本研究は、こうした観点を生かしながち、イベリア半島を対象にして、「ヒトの移動」と「地域」形成の関係を、歴史的に分析しようとするものである。共同研究の前提として、まず、大西洋をはさんだ、現代におけるイベリア半島とアメリカ大陸間のヒトの移動を中心にして、統計的な研究、地域意識の形成、移民先での移民の社会的地位といったテーマについて検討した。その後、対象を近代以前にまでひろげ、さらに移動の地域をピレネー山脈をはさんだ、イベリア半島とほかのヨーロッパ地域とのあいだの人の移動にまで拡大して、宗教意識の変容や言語の変化を含む、幅広い視,点から検討を行なった,また、強いられた移動である「亡命」についても、人々の帰属意識の変化の側面から分析を進めた。共同研究の最後に、アジアにおける人の移動を比較検討の対象としてとりあげ、いかなる分析方法が地域研究にとって有効であるか、といった総括的な作業を行なった。