- 著者
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小野 泰教
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
本研究では清末開明知識人郭嵩〓(1818-1891)らが中国社会最大の問題点として、当時の「官権」の在り方(官僚・官僚制の在り方)に関心を有していたことに注目し、彼らの間の二つの官権観-一つは従来の政治主体としての士大夫官僚を活性化させるべきとするもの、もう一つは民の意思を実現する行政専門家としての官僚を創出すべきとするもの-の葛藤から清宋政治思想史を描き出すことを目標とした。本研究は三部構成で、第一部は、従来の官権の在り方への懐疑や前述の二つの官権観が西洋認識とともに出現する段階(郭嵩〓・劉錫鴻の議論)、第二部はこつの官権観が地方行政の改革に反映されていく段階(陳宝箴・黄遵憲の議論)、第三部は科挙の是非を中心に国政の改革につながっていく段階(張之洞・袁世凱の議論)である。本年度は、1.第二部につき、従来-地方行政改革とされてきた湖南戊戌変法が、実は本研究第一部から続く官権観の議論の実現として捉えることが可能であることを明らかにし、第一部と第こ部を連結させた。2.研究に着手してまもない第三部につき、中国社会科学院により洛陽で開催された「第三届中国近代思想史国際学術研討会」に参加、第一線の中国人研究者から直接指導を受けた。3.第一部から第三部を俯瞰するため、郭嵩〓を起点として1890年代までの士大夫官僚と専門技術者との関係を考察し、この時期一貫して、旧来型士大夫官僚を重視する官権観と、専門技能を有する官僚を重視する官権観との対立があったことを明らかにした。4.知識人の言説に加え事績をも再検討し、研究の精度を高めた。本研究の起点であり、旧来型の士大夫官僚の在り方を重視した郭嵩〓の事績を分析し、彼が財政、外交、民衆教化に同時にかかわっていたことを指摘、専門性を超えた旧来型士大夫官僚の能力を重視する郭の官権観の意義を確認した。研究代表者は本年度(初年度)で日本学術振興会特別研究員DC2を辞退した。