著者
角 田裕 笠井 篤信 長野 公昭 牧野 克俊 海野 雅澄 森本 美典 小野 直見 西川 英郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.745-752, 1988-06-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
28

サイアミン静脈内投与により,臨床症状の著明な改善が得られた乳酸性アシドーシスを合併した,衝心脚気の1例を報告する.患者は41歳の男性で,シ3ック,チアノーゼ,呼吸困難,胸痛,浮腫のため入院した.血中乳酸,ピルビン酸の増加,ビタミンB1の低下,動脈血ガス分析でHCO3の低下,aniongapの増加を認め,乳酸性アシドーシスを合併した衝心脚気と診断された.乳酸の蓄積は偏食,摂取エネルギーの不足,ビタミンB1不足によるmetabolicblock,およびショックによる組織の低酸素症により発生したと推定される.晦行力学的には高心拍出量性心不全,末梢血管抵抗の低下およびUCGより右室拡大が著明で,心室中隔が左室側へ圧排された結果,左室拡張障害が招来され,肺動脈模入圧の上昇の一原因となった逆バーンハイム効果を認めた.本例のように乳酸性アシドーシスを合併した衝心脚気は,現在までに7例の報告をみるのみで,30~40歳台の男性に好発し,特徴的なことは,炎症が存在しないにもかかわらず白血球数が増加することであった.
著者
益岡 弘司 世古 哲哉 森木 宣行 山中 猛成 常岡 克伸 上田 国彦 中沢 茂雄 小野 直見 二神 康夫 須川 正宏 井坂 直樹 中野 赳
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.295-299, 1996

Tissue plasminogen activator(t-PA)による冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)後の再閉塞が,以前より問題となっている.短時聞でのt-PA投与に伴う反応性の線溶能の変動が,再閉塞に関与することを既に我々は報告した.今回我々は,現時点で一般臨床上使用可能な投与量でも再閉塞の予防に寄与する投与方法がないかを検討するために,2つの異なったt-PAの投与方法を試み比較検討した.〔方法〕急性心筋梗塞患者20例を無作為にA群10例とB群10例に分けた.A群にはt-PA640万単位でPTCRを施行した.B群は480万単位で施行後,160万単位を6時間かけて末梢静脈より持続点滴した.PTCR開始前と開始の24時間後に採血し,t-PA,PAI-1,PIC,TAT,AT III,α2-PI,fibrino-gen,D-dimerおよび血小板数を測定した.〔結果〕PTCRはA群の1例で再灌流しなかった.4週後の確認造影では,PTCR不成功の1例に加え別にA群で1例が完全閉塞であったが,B群に再閉塞例はなかった.PTCR開始前の各因子に両群間で有意差は認めなかった.24時間後の値では,TATがA群15.4ng/ml,B群3.2ng/mlと有意にB群で低値であったが,他の因子に両群間で有意差は認めなかった.〔結論〕PTCR後のt-PA持続点滴を試みた.点滴例に慢性期再閉塞はなかった. t - P A 持続点滴例はPTCR単独例に比し,24時間後のPICに差はないがTATは有意に低く,線溶療法後の線溶活性は変わらないが反応性の凝固亢進状態の持続は弱いと考えられ,再閉塞の予防に有用である可能性がある.