著者
小須田 翔
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1_225-1_247, 2018 (Released:2021-07-16)
参考文献数
40

本稿では, 熟議民主主義論における規範的研究と経験的研究の協働の試みを, ミニ・パブリックス実験を通して精査する。熟議民主主義論は, 過去30年にわたって, 規範的研究と経験的研究の双方から着目されてきた。規範的研究は, 熟議民主主義の理想的な理論を特定し, 経験的研究は熟議的なミニ・パブリックスを実験として用いることによって理想化された諸想定を検証してきた。そうした想定のいくつかについては, 肯定的な実験結果が出されてきた。しかし, 規範的研究と経験的研究の協働において, 熟議民主主義論の理想的な想定を否定する実験の結果をどのように解釈するのかという問いが残されている。協働の既存のアプローチは, 規範的諸想定を超越させ実験結果の意義を否定するか, もしくは規範的諸想定を現状維持にまで切り詰める傾向があった。本稿では, 理想的な熟議民主主義論の諸想定は, 決定形成手続きの正統性を判断する規準としての正統性規準と, よりよい帰結をもたらすための制度ガイドラインに区別することによって, 既存研究の問題を乗り越えることができ, 規範的研究と経験的研究の協働を発展させることができると論じる。