- 著者
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尹 盛熙
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.2, pp.19-36, 2016
<p>本稿の目的は,日本語の翻訳字幕を観察し,強い時間的・空間的制約が課される談話形式において「省略・縮約」という言語的手段が日本語でどのように実現するか,また構造的に類似している韓国語とはどのように異なるかを明らかにすることである.そのためにアメリカとイギリスのテレビドラマシリーズのDVD(日本発売期間2001年~2012年)11作品から両言語の翻訳字幕を集め,文字数などを基にした情報量の比較と使用形式の分析を行った.日韓の字幕を観察すると,全般的に日本語の方が文字数・情報量ともに少なく,省略の度合いが大きい傾向がある.日本語字幕において省略を行う手段は,情報内容を減らす以外に,文の成分や文法要素を削って短さを実現することである.このような縮約の形式は「助詞止め文」「名詞止め文」の2種類で実現する.「助詞止め文」は述語を省くことにより文が助詞で締めくくられるもの,「名詞止め文」は文が名詞(句)で締めくくられるものだが,いわゆる名詞述語文でコピュラがないものも含まれる.両方とも韓国語字幕ではあまり観察されない形式であり,日本語の縮約戦略の一つであるといえる.さらにこれらの縮約形式には,「簡潔で強い印象を与える」という語用論的機能が持たれ,劇的緊張を高める場面で効果的に活用されることがあるが,これは省かれた情報を補う働きをするものと考えられる.</p>