- 著者
-
尾形 敬次
- 出版者
- 日本生命倫理学会
- 雑誌
- 生命倫理 (ISSN:13434063)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.1, pp.48-54, 1999-09-13 (Released:2017-04-27)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
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生命倫理の課題の一つは"人間の尊厳"を守ることだといって良いだろう。我々の多くが知っている人間の尊厳の理念とは、基本権の根拠となる概念である。そこでは人間の尊厳の不可侵性が述べられ、権利保障の根拠が人間の尊厳にあるとされる。特に、生存権の根拠とするには、それがいかなる意味かが問題になる。しかし人間の尊厳の概念に一定の了解がなく、そのために先端的な研究に対する倫理的見解にも混乱が生じる。そこで、人間のもつ能力のうちで何が尊重されるべきかを再度確立することが必要となる。ハンス・ヨナスは人間の諸能力のうち、責任という能力に着目し、これを理性や自律という従来の倫理原則に代わる新たな原則にせよと主張する。本稿では責任という能力が基本権の根拠である人間の尊厳に据えることができないかどうかを検討する。