著者
尾﨑 保夫 林 紀男 片桐 浩司
出版者
日本水処理生物学会
雑誌
日本水処理生物学会誌 (ISSN:09106758)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.81-93, 2017 (Released:2018-03-10)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

沈水植物は,湖沼の水環境保全や生物多様性の維持・向上に重要な役割を果てしている。しかし、高度経済成長期以降、干拓や湖岸堤の建設、水質汚濁の進行などにより、霞ケ浦や印旛沼では、沈水植物は1990年代に消失してしまった。このため、2000年代以降、埋土種子等を活用した沈水植物の再生事業等が精力的に進められてきたが、沈水植物を持続的に生育させるのが難しい現状にある。本稿では、これらの試験結果等を基に、沈水植物の生育に与える各種環境要因の影響を検討し、今後の沈水植物再生のあり方について考察した。印旛沼では、湖底から採取した土壌シードバンクより、地域の遺伝情報を持つ26種の沈水植物が発芽・再生した。この土壌シードバンクを各種消波構造物で囲まれた水生植物再生ゾーン(水深30~70cm)等に撒き出したところ、ヒメガマなど抽水植物の侵入、泥や浮泥の蓄積およびアメリカザリガニや水鳥の食害などにより、数年で沈水植物は消失した。ヒメガマは水深70cm弱の深さまで生育することができる。一方、水深が80cm以上になると湖底に届く光量が低下し、沈水植物の発芽・再生が抑制されることが示唆された。これらの調査結果より、現在の水質汚濁状況では、沈水植物が安定生育できる場が極めて少ないことが明らかになった。このため、流域ごとに発生源対策を一層推進し、水の透視度を高めると同時に、食害動物の適正管理手法を開発することが喫緊の課題である。また、沈水植物の持続的な生育には、泥や浮泥が堆積しない中規模の攪乱が必要なことも明らかになった。沈水植物の生育に最適な場を造成するため、これまでの試験成績等を基に、多様な環境因子を組み込んだ新たなシミュレーション手法の開発と、実証試験を組み合わせた今後の順応的管理に期待したい。