著者
居川 幸正 松原 泉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.536-541, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
15

目的:長期入院胃瘻造設後患者を対象に生存時間分析を行うことで,胃瘻造設時年齢が生命予後に与える影響を明らかにする.方法:対象者は2005年12月から2012年3月までの間に当院に入院していた胃瘻造設後の患者478名のうち,最終的な転帰を調査できた408名.胃瘻造設後の患者は日常の看護,介護の一環として口腔ケアを施行された.胃瘻造設時の年齢によって対象を4群に分割し,60~69歳を60歳代群,70~79歳を70歳代群,80~89歳を80歳代群,90~99歳を90歳代群とした.Kaplan-Meier法を用いて生存曲線を描出し,log-rank検定とCoxの比例ハザードモデルで統計学的解析を行った.結果:全対象者の1年生存率は75.4%,5年生存率は23.2%,生存中央値は32.2カ月であった.女性の生存率が有意に男性よりも優れていた(p=0.0014).80歳代群と90歳代群は60歳代群と比較して有意に生存率が低かった(p<0.008).しかし,70歳代群,80歳代群および90歳代群の3群間の生存率はほぼ同様の傾向を示し,log-rank検定で有意差は検出されなかった.女性に対する男性の年齢調整死亡ハザード比は1.748(95%信頼区間,1.364~2.242),60歳代での胃瘻造設の死亡ハザードを1としたとき,80歳代および90歳代での造設による性別調整ハザード比は,順に2.173(95%信頼区間,1.341~3.521),3.071(95%信頼区間,1.627~5.797)であった.結論:今回の研究結果は,既報告に比べて全体的に生存率が高く,日常的な口腔ケアが胃瘻造設後の生命予後を向上させ得ることを示した.80歳以上での胃瘻造設は60歳代での造設に比べて有意に死亡リスクが高く,80歳以上の高齢になるほど,胃瘻造設の適応に慎重さが求められることを示唆している.