著者
山下 嗣太
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.21-37, 2018-06-01 (Released:2021-07-10)
参考文献数
42

二〇〇七年に都市人口が世界人口の半数を超えたことが大きく注目を集めたが、二十一世紀における都市人口増加の大部分はグローバル・サウスで生じるとされている。このような背景の下で、近年の都市論においてはグローバル・サウスの都市が盛んに論じられている。しかし、これらの議論の多くは西洋の都市をモデルとした従来の都市論の転用に基づいており、グローバル・サウスの都市はそれらの理論からの逸脱によって説明される。その結果、対象の都市の特定の側面がネガティブに表象され、さらには、理論の適用可能性の低い都市はそもそも議論から排除されてきた。 本稿では、既存の都市論におけるグローバル・サウスの都市の位置づけを概観することで、このような理論的制約を明らかにする。その上で、理論の生産様式に内包されているこれらのバイアス、すなわちグローバル・ノースとサウスという地理的な権力関係を乗り越えた、ポストコロニアル・アーバニズムの論点を提示する。具体的には、グローバル・サウスに特有だとされてきたインフォーマリティ概念の読み替え、都市のマテリアルな構成要素への注目、相関性に基づいた分析概念について論じる。これらを踏まえることで、他の都市において生産された理論を単に適用するのではなく、議論の対象である都市を理論生産の場として捉え、都市の多様性を包摂した議論を行うための要件を示す。その上で、都市生活者としての研究者の立ち位置を理論生産の出発点とする必要性を述べる。