著者
佐川 志朗 山下 茂明 佐藤 公俊 中村 太士
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.95-105, 2003-08-25
被引用文献数
2

1.北海道北部の河川支流域における秋季のイトウ未成魚の生息場所の物理環境特性を2つの異なる河川規模において調査し,年級群による比較を行った。さらに同所的に生息するサクラマス幼魚との植生の比較により,採餌様式および種間関係について考察をおこなった。2.解析の結果,イトウは当歳魚よりも1歳以上魚の方が深い水深を必要とした。一方,流速には両者間での差がなく,当歳魚および1歳以上魚共、流速が0m/sec程度に緩和された箇所に生息した。3.2次水流では当歳魚が多く,3次水流では1歳以上魚が多い傾向がみられた。さらに,当歳魚は岸寄りに,1歳以上魚は流心に定位する傾向がみられた。4.イトウ未成魚の体サイズと水深およびカバー長との間には有意な関係が認められ,さらに,成長に伴い必要とする水深およびカバーの規模が大きくなることが示唆された。5.胃内容物分析の結果,サクラマス幼魚は流下動物依存型の採餌様式を持つのに対して,イトウ未成魚は河床上もしくは河床中の底生動物依存型の採餌様式を持つことが示唆された。また,イトウ当歳魚はカゲロウ目に依存した採餌様式を示すが、1歳以上魚になると魚類への依存度が最も高くなり、共食いのケースも確認された。6.本研究結果より,イトウの保全のためには,上流域から中流域への未成魚の分散経路の保全,未成魚の生息場所となるカバーを有する様々な水深の緩衝帯の保全、餌資源の生息場所となる河畔林および砂礫底の保存が極めて重要であることが示唆された。