著者
田和 康太 佐川 志朗
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00019, (Released:2022-03-23)
参考文献数
80
被引用文献数
2

本研究では,豊岡市内の休耕田を周年湛水した水田ビオトープにおいて健全な湿地環境の指標分類群となるトンボ目幼虫,水生コウチュウ目,水生カメムシ目およびカエル類を対象とした生息状況調査を実施した.まず,経年的なモニタリング調査により,各水生動物の生活史において水田ビオトープが季節的にどのように寄与しているか明らかにすることを目指した.また,これらの水生動物の季節消長を周辺の水田およびマルチトープ(承水路)と比較することにより,水田ビオトープにおける水生動物群集の特徴を整理した.水田ビオトープには,ため池に生息するトンボ目や年多化性のトンボ目,コミズムシ属,早春期に繁殖するニホンアカガエル等の繁殖場所となることが示唆された.また,水生コウチュウ目成虫の個体数が 8 月以降に急増し,さらに深場では,ミズカマキリやハイイロゲンゴロウの個体数が秋期に急増した.このことから,水田ビオトープは多種の水生昆虫にとって,周辺水田の落水時避難場所や非繁殖期の生息場所,越冬場所となることが示唆された.その一方で多種の水生コウチュウ目やアカネ属,ニホンアマガエル,ヌマガエルは水田ビオトープよりも一時的水域である調査区の水田やマルチトープを主な繁殖場所とすると推察された.このことから,各水生動物の種ごとあるいは目的や季節ごとに選好する水域が変化することを踏まえ,周年湛水域である水田ビオトープだけでなく一時的水域である水田やマルチトープといった様々なタイプの水域が組み合わせて水生動物群集の多様性を保全すべきと考えられた.また,水田ビオトープの深場がウシガエルの繁殖場所となっている負の効果もみとめられ,外来種の繁殖抑制等,水田ビオトープの適切な管理を行いながら水生動物群集の保全効果を高めていく必要があると推察された.
著者
内藤 和明 福島 庸介 田和 康太 丸山 勇気 佐川 志朗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.217, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
44
被引用文献数
1

兵庫県豊岡市を中心とする地域で行われている「コウノトリ育む農法」の実施圃場と慣行栽培圃場のそれぞれで植生および動物分類群の調査を行い、景観要素を含めて解析して、コウノトリ育む農法が植生および動物分類群に及ぼす影響を明らかにした。コウノトリ育む農法は水生動物の個体群密度よりも田面および畦畔の維管束植物の出現種数と被度に対してより直接的な正の影響を及ぼしていた。水生動物の個体群密度に対するコウノトリ育む農法の影響は、アシナガグモ属、ミズムシ科、コオイムシ科、タイコウチ科、ゲンゴロウ科(成虫および幼虫)、ガムシ科(成虫および幼虫)の個体群密度、カメムシ目およびコウチュウ目(成虫)の出現種数に対しては総じて正の影響で、この農法の生物多様性保全効果が確認された。一方で、分類群によって異なる景観要素の影響も検出された。トノサマガエル(成体)の個体群密度には農法による影響が確認されなかった。
著者
田和 康太 細浦 大志 露木 颯 長谷川 雅美 佐久間 元成 遠藤 立 安東 正行 松本 充弘 黒沼 尚史 中村 圭吾 佐川 志朗
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00033, (Released:2022-07-21)
参考文献数
60
被引用文献数
1

コウノトリの採餌環境として着目されている田中調節池において,魚類を対象とした生息状況調査を 2018 年および 2019 年に実施した.また,台風 19 号通過に伴う洪水前後での魚類の分布状況を比較することで,平水時の田中調節池における魚類の生息地としての問題点および今後の配慮方針について検討した.平水時の農閑期(2018 年 12 月)では,支線排水路における魚類の分類群数および個体数は少なく,魚類の全く採集されない調査区も存在した.また,同時期に幹線排水路で確認された魚類が末端排水路ではほとんど記録されなかった.洪水後の農閑期(2019 年 11 月~12 月)には,支線排水路において魚類の分類群数,個体数ともに洪水前に比べて顕著に増加し,洪水前にはみられなかったタモロコやメダカ属等が採集された.また,洪水前には乾燥していた支線排水路も洪水後には湛水され,ドジョウ等の魚類が採集された.洪水後の各支線排水路におけるドジョウの個体数や魚類全体の個体数および分類群数には泥深が正の効果を示し,底泥の柔らかい水路環境が魚類の越冬環境として好適と考えられた.2019 年の農繁期における水田調査では,カラドジョウの繁殖のみが田面で確認された.以上より,洪水によって利根川本川から幹線排水路,支線排水路まで水域が連続し,魚類の分布域が拡大することが示唆された.その一方で,平水時の支線排水路までの連続性は低く,農繁期に多種の魚類が田面まで遡上できないこと,農閑期には支線排水路で魚類が十分に越冬できないことが明らかになった.平水時の田中調節池における魚類の繁殖場所・越冬場所としての機能を高めるためには,特に幹線排水路と支線排水路,そして支線排水路と田面との落差を解消させること,さらに底泥の柔らかい水路区間を積極的に保全し,河道内のワンド等とも連続させることで魚類の越冬場所を確保することが重要と考えられた.その一方で,こうした取り組みによって外来種の分布域を拡大させる可能性があることにも留意し,健全な水域の連続性の確保を目指す必要があるだろう.
著者
佐川 志朗 萱場 祐一 皆川 朋子 河口 洋一
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.193-199, 2006-01-30
参考文献数
21
被引用文献数
2 4

本研究は,水面幅約3mの直線河道を呈する実験河川において,24調査区における努力量を統一させた魚類捕獲調査を行い,エレクトリックショッカーの捕獲効率を算出し,各種に対するショッカーの効用および効果的な魚類捕獲の方法について考察することを目的とした.調査の結果,底生魚および遊泳魚ともに捕獲効率が高い種および低い種が存在し,前者としては,アユ,ドジョウおよびシマドジョウ属が,後者としては,オイカワ,タモロコおよびヨシノボリ属が該当した.オイカワおよびタモロコの捕獲効率が低かった原因としては,第1年級群である40mm以下の小型個体の発見率が小さかったことが示唆された.また,ヨシノボリ属については,微生息場所である河床間隙中で感電した個体が発見できなかったために,第1,第2年級群を含めた全サイズ区分にわたって捕獲効率が低かったことが考えられた.ヨシノボリ属やコイ科魚類の稚仔魚が分布する河川でショッカーを用いて捕獲を行う際には,たも網を用いて感電個体をすくい捕るのと併せて,あらかじめ通電する箇所の下流に目の細かいさで網を設置しておき,すくい捕りのすぐ後に,足で石を退かせながら水をさで網に押し入れるような捕獲方法を併用することが望ましい.今後は,本邦産魚類の各種に対して,様々な水質条件,ショッカー設定下での捕獲効率を明らかにするとともに,各魚類の成長段階ごとにショッカーの影響程度を把握し,効果的で魚類個体群への影響を最小限とする魚類捕獲手法の検討を行う必要がある.
著者
田和 康太 佐川 志朗 宮西 萌 細谷 和海
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.193-208, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
51
被引用文献数
1

兵庫県豊岡市円山川水系の鎌谷川において,河川域から水田域までの連続性確保および上流の水田ビオトープにおける魚道設置と深場造成が水田魚類群集に与える効果を検証した.その結果,ドジョウMisgurnus anguillicaudatusやフナ属Carassius spp.が下流域から水田ビオトープへ遡上した.また,改修前には採集されなかったフナ属とタモロコGnathopogon elongatus elongatusが水田ビオトープ内で繁殖している可能性が高かった.さらにフナ属やタモロコ,ドジョウ,キタノメダカOryzias sakaizumiiは改修後の水田ビオトープを秋冬期の生息場所として利用していた.改修後の水田ビオトープにはコウノトリCiconia boycianaが周年飛来しており,水田ビオトープ内人工巣塔での初営巣,それら営巣つがいおよび幼鳥の水田ビオトープにおける採餌利用も観察された.以上より,健全な水域の連続性確保による水田魚類群集の保全がそれらを餌とするコウノトリの生息や繁殖に大きく寄与することが示唆された.
著者
江崎 保男 大迫 義人 佐川 志朗 内藤 和明 三橋 弘宗 細谷 和海 菊地 直樹
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

兵庫県但馬地方のコウノトリ再導入個体群は2015年に、そのサイズが80に達したが、本研究により社会構造がほぼ解明され、但馬地方の環境収容力が約50羽であることがわかった。巣塔の移動や給餌の中止を地域住民の合意のもとに進め、生息適地解析、個体群モデルの活用、核DNAをもちいた家系管理を進めながら、水系の連続性確保に努めた結果、餌動物の現存量増加が確認できたことなど、野生復帰が大いに進展した。また、コウノトリが全国各地に飛んで行き、徳島県では新規ペアが産卵するなど、メタ個体群形成に向かって野生復帰が一気に加速しており、アダプティブ・マネジメントの手法もほぼ確立できた。
著者
佐川 志朗 山下 茂明 佐藤 公俊 中村 太士
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.95-105, 2003-08-25
被引用文献数
2

1.北海道北部の河川支流域における秋季のイトウ未成魚の生息場所の物理環境特性を2つの異なる河川規模において調査し,年級群による比較を行った。さらに同所的に生息するサクラマス幼魚との植生の比較により,採餌様式および種間関係について考察をおこなった。2.解析の結果,イトウは当歳魚よりも1歳以上魚の方が深い水深を必要とした。一方,流速には両者間での差がなく,当歳魚および1歳以上魚共、流速が0m/sec程度に緩和された箇所に生息した。3.2次水流では当歳魚が多く,3次水流では1歳以上魚が多い傾向がみられた。さらに,当歳魚は岸寄りに,1歳以上魚は流心に定位する傾向がみられた。4.イトウ未成魚の体サイズと水深およびカバー長との間には有意な関係が認められ,さらに,成長に伴い必要とする水深およびカバーの規模が大きくなることが示唆された。5.胃内容物分析の結果,サクラマス幼魚は流下動物依存型の採餌様式を持つのに対して,イトウ未成魚は河床上もしくは河床中の底生動物依存型の採餌様式を持つことが示唆された。また,イトウ当歳魚はカゲロウ目に依存した採餌様式を示すが、1歳以上魚になると魚類への依存度が最も高くなり、共食いのケースも確認された。6.本研究結果より,イトウの保全のためには,上流域から中流域への未成魚の分散経路の保全,未成魚の生息場所となるカバーを有する様々な水深の緩衝帯の保全、餌資源の生息場所となる河畔林および砂礫底の保存が極めて重要であることが示唆された。