著者
山下 輝彦 小濱 剛 神山 斉己
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.35, no.16, pp.23-26, 2011-03-08

本研究ではサッカード眼球運動の発生メカニズムを解明することを目的として,前頭眼野から脳幹網様体に至る神経細胞ネットワークの数理モデル化を行った.神経生理学知見に基づけば,サッカード発生の際には,まず前頭眼野でサッカード計画が生成され,黒質網様部を介して中脳の上丘に達し,サッカード命令に変換される.上丘では,視線の移動量と移動速度に関する信号に符号化して出力され,これが脳幹網様体に伝達されて眼筋の収縮をもたらし,サッカードとして表出する.前頭眼野,上丘,および脳幹には,注視時に持続的に活動する注視細胞や,サッカードの準備段階で活動を開始するビルドアップ細胞,サッカードの直前に活動するバースト細胞などが存在することが知られているが,そのネットワークや統制のメカニズムについては,未だ完全には解明されていない.提案モデルは,解剖学的知見に基づいてサッカードに関与する神経系のネットワークを定式化し,サッカード時の各部の神経応答の再現を可能としたものである.シミュレーション実験の結果,エクスプレスサッカード時の神経応答をよく再現することが示され,アンチサッカード時の上丘中間層細胞の応答をも再現が可能であることが示された.このことから,サッカード生成メカニズムの数学的な表現として,ある程度の妥当性を持つことが示唆された.