著者
木村 祐哉 山内 かおり 川畑 秀伸 木村 祐哉 山内 かおり 川畑 秀伸 木村 祐哉 山内 かおり 川畑 秀伸
出版者
日本動物看護学会
雑誌
Animal nursing
巻号頁・発行日
vol.15-16, pp.1-5, 2010-11

動物看護師の労働状況とメンタルヘルスの現状について把握するための予備的研究として、現役で勤務している動物看護師を対象に質問調査を実施した。調査はウェブを介して行い、 32名の回答を得た。有効回答は31名であり、そのうち15名(46.8%)は心と身体の健康調査表(STPH)の抑うつ尺度得点が高く、うつ病の可能性があると判断された。同得点による抑うつ傾向は未婚者よりも既婚者で強かったD過去に思い描いていた動物看護師像と現在の自己認識像が乗離している者でも抑うつ傾向は強く、そうした禿離を防ぐために職業教育や求職活動のあり方を再考する必要性が示唆された。また、自由記述からは「ワーク・ライフ・バランスの未達成」や「人間関係での苦労」、 「労働条件に関する不満」などが問題として指摘された。
著者
木村 祐哉 山内 かおり
巻号頁・発行日
2009-07-26

背景: 一般に医療従事者は過度なストレスに曝されていることが知られており、獣医療に従事する者もまたその例外ではないと考えられる。このような過度のストレス暴露を受けることにより、うつに代表されるような、心身に及ぶ種々の問題が生じる可能性が示唆されているが、演者らの知る限り、動物看護職におけるストレスに関する調査はこれまでに報告されていない。そこで本研究では、動物看護職の中でもうつなどの問題が実在していることを確認し、労働環境などのストレス要因との関連を述べることを目的として、質問紙による調査を試みた。 対象と方法: 本調査は動物看護師を対象とし、2008年10月27日~2009年3月10日に実施した。調査対象者は、動物看護職向けのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるAniProを通じてウェブ上のアンケートフォームに回答するように求めるか、それを印刷した物を演者らの知人に配布することによって募集した。質問内容には性別や年齢などのプロフィールを問う項目、想定される19種のストレス因子への暴露の有無を問う項目(表)、産業衛生領域におけるうつのスクリーニングツールとして作成された心と身体の健康調査表(STPH)の簡易版であるSTPH-15(カットオフ値7/8点)を含み、さらにその他のストレス因子について自由な記述を求めた。回収された質問紙はまず単純集計し、STPH-15の値に基づいて「うつ群」と「非うつ群」を区別した。さらに、プロフィールやストレス因子への暴露の有無によって、STPH-15の値に差があるかどうか統計学的に解析した。処理には無料で入手可能な統計パッケージであるR version 2.8.1を用い、連続変数の値をとるものはSpearman順位相関係数、離散変数の値をとるものはWilcoxon順位和検定による解析を実施した。なお、回答内容に欠損値(無回答)が含まれるものについては、集計から除外した。 結果: 現役の動物看護師32名の回答が得られた。そのうち欠損値のあった1名を除外すると、女性が30人を占め、男性は1名だった。平均年齢は27.9歳で、未婚者が24名、既婚者は7名だった。勤続年数は平均6.1年、1日の勤務時間は平均10.7時間だった。STPH-15が陽性となり、うつであることが疑われるのは31名中15名だった(46.8%)。統計学的解析では、STPH-15の値は年齢、勤続年数、勤務時間との間に相関を認めず、既婚者は未婚者よりも有意に陽性者が多かった(P=0.03)。その他には、現在の自分が理想の動物看護師像そのものであると感じられなければ、STPH-15の得点が高かった(P=0.01)。自由記述では、ストレスの原因として将来への不安、家庭生活との両立の困難、同僚との接し方に関する悩みなどが挙げられた。 考察: STPH-15を用いることにより、調査対象に偏りのある恐れはあるものの、うつに悩む動物看護師が確かに存在することが示唆された。こうしたうつの傾向は、結婚している、あるいは動物看護師としての理想と現実に差異のある者に強く表れていることが明らかになった。自由記述からの示唆も踏まえると、将来性も考慮に入れた労働条件やワーク・ライフ・バランスの改善は、動物病院経営における今後の大きな課題となるであろう。また、理想と現実との差異は、ある面においては雇用者-被雇用者間で動物看護に対する認識が異なることに起因していると考えられ、旧来の就職活動における両者のマッチングの不備を示唆するものである。こうした点については、動物看護師を養成する側からも対策を考慮していく必要があるであろう。 今後の展望: 本調査において検討したストレス因子は探索的研究によって導き出されたものではなく、未だ不十分と考えるべきであり、より適切な因子を抽出するための質的な研究が求められるであろう。その上で、対象の偏りがないように配慮した拡大調査を進め、動物看護職における労働条件の改善に取り組むことが重要である。