著者
山内 俊雄
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.393-402, 2009-01-31
被引用文献数
1 4

わが国のてんかん研究ならびにてんかん医療についての歴史を概観する中で、今後のわが国のてんかん学・医療のあるべき姿について考えた。20世紀の半ばまで、てんかんは精神科の三大精神病の一つとされ、精神医療の対象とされてきた。その背景には、てんかん発作に対する適切な治療法が無いままに、進行性に慢性の経過を辿りながら、精神症状が出現し、精神の荒廃に陥ることが多いという、てんかんの置かれた状況が関係していたものと思われる。20世紀半ばから、てんかん学の進歩により、てんかんの診断ならびに治療が進むにつれ、てんかん発作の抑制が可能になり、それにともない、精神の荒廃にいたらずにすむようになった。そのような状況とあいまって、精神科以外に、小児科、脳神経外科、神経内科などの診療科がてんかん学・医療に参画し、基礎医学なども加えて、学際的な研究組織が生まれ、日本てんかん学会へと発展し、今日に至っている。これらてんかん学・医療の発展を基盤として、今後は、診療科にこだわらない形で、「てんかん学科」「てんかん診療科」の名の下に、学際的・包括的な学問・医療を創設する必要がある。そのためには、現在の日本てんかん学会認定医(臨床専門医)制度を、てんかん学・医療の基本的な能力を有する「てんかん学会認定医」と、さらに専門性が高く、各診療科の専門的能力を発揮する「てんかん学会専門医」(現在の学会認定医に相当)の2層構造にすべきであることを主張した。また、当事者ならびに家族を中心とした組織である日本てんかん協会との連携の重要性を強調した。