著者
宅間 真紀 (山内 真紀)
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は主に以下の点に関して研究を行った。1.日本語書記意識史を研究する際、時代、書記者、ジャンル、社会背景など様々な要因を考え併せ、各資料ごとに見られる書記意識を掴む必要があるが、書記意識が強く反映される仮名遺書や文字研究書を調査対象にするのが先決であると考えた。調査対象を拡げながら、作業を積み重ねることで、時代、書記者の流派(学派)など諸要素内での書記意識史を大まかに捉え、それら個別の書記意識史を統合させることで、日本語全体の書記意識史を捉えることができよう。今年度は、その初歩的な作業として、九州大学音無文庫、松濤文庫に所蔵されている書物の調査・目録の作成に努めた。2.今年度は、「仮名字体の規範意識」に注目した。従来、変体仮名は、明治33年の小学校令施行規則により定まった、現行平仮名字体以外を指す名称とされてきた。しかし、本研究では、空海真筆のいろは歌が要因となって、既に近世期から、仮名の正体である基本字体(空海真筆いろは歌の書写字体)とそれ以外の字体(変体)を区別する意識が存在していたことを明らかにした。具体的には、岡島隆紀『仮字考』(享保11年)に(基本字体:仮字正字/それ以外の字体:四十七字之外平仮字並イ呂ハ異體)、伴信友『仮字本末』(嘉永3年)に(空海の書定めたるいろは假字/いろは假字ならぬ草假字)、中根淑『日本文典』(明治9年)に(平假名/中假名)といった二分類が見られる。本研究により、新たに「変体仮名」の定義として、以下の説明を加えた。仮名の正体に対して変体(別体)とされる仮名。古くはいろは歌所用の仮名字体が正体とされたので、それ以外の字体の仮名を指した。小学校令施行規則により現行の平仮名字体が正体とされた明治33年以降は、現行の平仮名字体以外のものを指す。(以上の内容は、第197回筑紫国語学談話会、第91回訓点語学会研究発表会にて口頭発表を行った)