著者
青木 優和 山口 あんな
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.304, 2004 (Released:2004-07-30)

コンブノネクイムシは、褐藻類の茎部に穿孔造巣し、寄主である海藻を生息場所および餌資源として利用する端脚目の海産小型甲殻類である。静岡県下田市大浦湾において本種が寄主とするワカメの藻体は 12月から 3 月までは生長するが、生長停止後は崩壊し始め、5 月までには消失する。寄生率はワカメの生長期である 1 月から 3 月にかけて増大し 90% 以上に達し、坑道状の巣内では、一夫一妻のペアが最大 3 腹分の幼体と同居する。体長組成解析と野外飼育実験により、初令幼体が新規加入サイズに成長するまでに約 1 ヶ月、加入後ペア形成して繁殖開始するまで約 2 週間、成熟メスは約 1 ヶ月間に脱皮成長を繰り返しながら最大 3 回産仔、寿命は約 2 ヶ月半であることが分かった。親と同居する幼体のサイズは体長 1.0-4.5 mm のものであり、このうち体長 2.0 mm 以上のものは新規加入個体としての造巣が可能なサイズであり、親との共存巣から取り出したこのサイズクラスの幼体は単独で造巣可能なことも確認された。加入初期のコンブノネクイムシでは、巣の容積増加率がワカメの茎部容積増加率に追いつかないため、ワカメ茎部の利用率は低下するが、2 月中旬に入ると上昇に転じた。1 巣当たりの個体数は巣容積の増加に対して成体がほぼ一定であるのに対して、幼体は次第に増加する。しかし、親が 1 腹分の仔のみと同居の場合には成体のみの場合と資源消費率に差がなく、0.5cm3 を越える巣の拡張には、2 腹以上の幼体との共存が必要であった。幼体にとって早期の移動分散は捕食や流失といったリスクを伴う。したがって、幼体はできるだけ長くワカメに留まり、分散後すぐに繁殖するのがよい。コンブノネクイムシは 2 腹以上の幼体の親との同居によって、短期的に増大するワカメ資源を集中的かつ効率的に利用していると考えられる。