著者
青木 優和 田中 克彦 熊谷 直喜 伊藤 敦 サバン ベギネール 小松 輝久
出版者
日本海洋学会沿岸海洋研究部会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.137-140, 2009

東シナ海から黒潮流域圏を漂流する流れ藻の葉上動物について2002年から2007年の春期に白鳳丸および淡青丸での航海調査を行った.沖合域で採集された流れ藻では,採集場所に拘らず葉上動物群集の組成が類似する傾向があり,群集多様度はガラモ場葉上動物相と比して一般的に低く,沖合のものほど低い傾向が認められた.優占動物上位は主に等脚類と端脚類で,最も卓越し海域と流れ藻の種類によらず出現した種がナガレモヘラムシだが,海域によってその個体群組成は異なった.端脚類のうちヨコエビ類で優占したのは基質藻体を食するヒゲナガヨコエビ科およびモクズヨコエビ科の1-2種だった.ワレカラ類でも沖合では特定の1-2種が優占し,とくに東シナ海で卓越したCaprella andreaeでは,その個体群組成から過大な魚類捕食圧が示唆された.流れ藻葉上動物群集の組成や個体群構造の特徴は,流れ藻の漂流期間や周辺環境を知るための手がかりとなる可能性がある.
著者
青木 優和 菊池 泰二
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.53, pp.p54-61, 1995-06
被引用文献数
1

東シナ海および九州天草において,Caprella andreae MAYER,1890がいずれもアカウミガメCaretta caretta(L.)の背甲上から採集された.本種の胸節は近縁地種に比べ太く頑健で,第5〜7胸脚前節には,カメの背甲上に生える小型の海藻類を把握し強い流れに抗するのに適した形態が見られる.Caprella acutifrons groupに属する近縁種で,生息基質の種類が多岐にわたるC.penantisでは体の太さなどに著しい種内変異がみられるが,C.andreaeでは得られた標本を比較し,また過去の記録を調査しても,胸節の太さやその他の形態に顕著な種内変異はみられなかった.C.acutifrons groupの種群のうち,漂流物やカメに着生するC.andreaeやヒドロ虫類に特異的に生息するC.glabraなどの生息基質特異性の強い種類は,C.acutifrons groupの祖先種から,孤立した特異な生息場所に適応して種分化してきたものであろう.
著者
青木 優和 山口 あんな
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.304, 2004 (Released:2004-07-30)

コンブノネクイムシは、褐藻類の茎部に穿孔造巣し、寄主である海藻を生息場所および餌資源として利用する端脚目の海産小型甲殻類である。静岡県下田市大浦湾において本種が寄主とするワカメの藻体は 12月から 3 月までは生長するが、生長停止後は崩壊し始め、5 月までには消失する。寄生率はワカメの生長期である 1 月から 3 月にかけて増大し 90% 以上に達し、坑道状の巣内では、一夫一妻のペアが最大 3 腹分の幼体と同居する。体長組成解析と野外飼育実験により、初令幼体が新規加入サイズに成長するまでに約 1 ヶ月、加入後ペア形成して繁殖開始するまで約 2 週間、成熟メスは約 1 ヶ月間に脱皮成長を繰り返しながら最大 3 回産仔、寿命は約 2 ヶ月半であることが分かった。親と同居する幼体のサイズは体長 1.0-4.5 mm のものであり、このうち体長 2.0 mm 以上のものは新規加入個体としての造巣が可能なサイズであり、親との共存巣から取り出したこのサイズクラスの幼体は単独で造巣可能なことも確認された。加入初期のコンブノネクイムシでは、巣の容積増加率がワカメの茎部容積増加率に追いつかないため、ワカメ茎部の利用率は低下するが、2 月中旬に入ると上昇に転じた。1 巣当たりの個体数は巣容積の増加に対して成体がほぼ一定であるのに対して、幼体は次第に増加する。しかし、親が 1 腹分の仔のみと同居の場合には成体のみの場合と資源消費率に差がなく、0.5cm3 を越える巣の拡張には、2 腹以上の幼体との共存が必要であった。幼体にとって早期の移動分散は捕食や流失といったリスクを伴う。したがって、幼体はできるだけ長くワカメに留まり、分散後すぐに繁殖するのがよい。コンブノネクイムシは 2 腹以上の幼体の親との同居によって、短期的に増大するワカメ資源を集中的かつ効率的に利用していると考えられる。
著者
小松 輝久 三上 温子 鰺坂 哲朗 上井 進也 青木 優和 田中 克彦 福田 正浩 國分 優孝 田中 潔 道田 豊 杉本 隆成
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.127-136, 2009-02-27

海面に浮遊している藻類や海草のパッチは流れ藻と呼ばれ,世界の海で見られる.日本周辺では,ホンダワラ類がそのほとんどを占めている.ホンダワラ類は,葉が変形し,内部にガスを貯め浮力を得ることのできる気胞を有しており,繁茂期には数メートルにまで成長する.沿岸から波などにより引き剥がされた後,その多くは海面を漂流し,流れ藻となる.東シナ海の流れ藻の起源を,固着期と流れ藻期のアカモクの分布調査,遺伝子解析,衛星位置追跡ブイ調査をもとに推定した.その結果,中国浙江省沖合域の島嶼沿岸から流出している可能性が示された.ホンダワラ類の流れ藻は,漂流中も光合成,成長などの生物活動を行っている.伊豆半島下田地先のガラモ場での現地調査および陸上水槽実験を通じて,流れ藻の発生時期とその量,成長,成熟,光合成速度,浮遊期間を調べた.最後に,ホンダワラ類にとっての流れ藻期の生態的意義について議論した.
著者
小松 輝久 青木 優和 鰺坂 哲朗 石田 健一 道田 豊 上井 進也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東シナ海においてブリやマアジの稚魚の生育場として流れ藻は重要な役割をはたしている.しかし,流れ藻についての知見は今までほとんどなかった.そこで,東シナ海の流れ藻の分布,生態,供給源について調べた.その結果,流れ藻がホンダワラ類のアカモクのみから構成されていること,黒潮フロントよりも大陸側に多数分布すること,中国浙江省沖合の島のガラモ場ではアカモクが卓越し,供給源となっていることを明らかにした.