著者
沼子 千弥 山口 力也 箕村 知子 小藤 吉郎
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.107, 2003 (Released:2004-07-26)

軟体動物の貝殻には、構成する炭酸カルシウム結晶の形態により、稜柱構造(prismatic structure)、交差板構造(crossed lamellar structure)、葉状構造(foliated structure)、真珠構造(nacreous structure)などのように分類される殻体構造(shell structure)が存在する。また、炭酸カルシウムにはカルサイト、アラゴナイトのように様々な多形が存在するが、その存在比は非生物系と生物系で大きく異なっていることが、いわゆる生体鉱物におけるカルサイトーアラゴナイト問題として知られている。生物が鉱物種、結晶形態、殻体の中での分布の全てを制御しながら生体鉱物として炭酸カルシウム結晶を形成してゆくメカニズムには新規材料開発を考える上で模倣すべき点を多く含まれると考えられ興味深い。そこで本研究ではそのメカニズム解明の第一歩として、現生の軟体動物数種について実際にそれらの生物が持っている殻体構造の軟体動物の種類による存在量や分布違い、そして殻を構成する炭酸カルシウム鉱物の種類とその量比について記載を行った。 軟体動物はクロアワビ、マガキなど日本近海で採集可能なものを海水棲・淡水棲、二枚貝類・腹足類・多板綱などを網羅するようにおよそ10種類選択し、軟体部と貝殻を分離した。貝殻は風乾・粉砕後、光学顕微鏡下で殻体構造の異なるものを分類し、それぞれ走査型電子顕微鏡で観察を行った。さらに粉末X線回折計を用いて貝殻を構成する鉱物種の同定と量比の算出を試みた。またいくつかの試料について、単色ラウエ法やプリセッション写真法により、結晶の方位や状態についてさらに詳細な検討を加えた。 実験の結果、軟体動物の種類が異なると、同じ殻体構造を持っていても構成する鉱物種の種類と量に差があり、殻体構造の結晶の形状の決定要因は構成鉱物種の結晶の自形のみではないことが明らかとなった。また同一殻体構造に複数の鉱物種が存在する場合でも、異方性や結晶粒の大きさなどにも鉱物種ごとに差違が生じていることが分かった。今後より多くの種類の生物について硬組織の構造と構成鉱物種の関連を調べてゆく必要があると考えられた。