著者
上山 義人 山口 奈緒子 窪田 泰夫
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ヒト頭髪in vivo実験系を確立する目的で、単離ヒト頭髪毛包の凍結保存法を検討した。採取したヒト頭皮から眼科用ハサミ、ピンセットにて機械的に毛包を単離し、そのままSCIDマウスに移植する群と一旦凍結してから移植する群に分けた。直ちに移植する群は、その場で移植し、凍結群はDMSO添加細胞凍結用保護培地に浸漬して凍結用チューブに入れ、ドライアイスにて凍結し、液体窒素中に一週間以上おいて、BALB/cA-nu,scidマウス背部皮膚へ移植した。両群(凍結保存群92本、未凍結群58本)で毛包の生着率を比較したところ、凍結群27.2%、未凍結群27.9%で、凍結保存による差は認められなかった。組織学的にも差違は認めなかった。このように、単離ヒト頭髪毛包は通常の細胞凍結技術の応用で比較的簡単に凍結保存が出来ることが判明した。そのため、上記の方法で凍結保存しておけば、計画的な移植実験が可能となる。移植成功率が1/4-1/3と考えると、一匹に10本程度の移植をしておけば、ほぼ2本のヒト頭髪を持った免疫不全マウスが得られるということになり、十分、実用に耐えうる。以上の結果が得られたため、年齢、性、部位、疾患別に整理して、“単離ヒト頭髪バンク"を作ることを試みた。しかしながら、最近の剖検率の低下、特に、頭部の剖検体数の低下、臨床におけるインフォームド・コンセントの難しさなどの問題があり、現在までのところ、総数11例に止まっている(いづれも健常人の頭髪、男女ほぼ同数、部位別には側頭部が多い)。次に、この実験系を用いてヒト頭髪に対すエナント酸テストステロンの影響を調べたところ、投与群5本の内2本において毛幹の脱落を認め、生着した毛包にも組織学的に退行変性の像を認めた。しかし、変化の全くなかった毛包も認められたため、今後の検討が必要である。