著者
山口 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P3271, 2009

【目的】拘縮は、我々理学療法士が日々の臨床において古くから最も頻繁に出くわす代表的な障害の一つであり、それ自体が患者にとって大いに苦痛であると同時に、日常生活において多大な不具合をもたらす.拘縮の病態は時代を追うごとに解明されてきている一方で、その予防に関しては本邦の臨床現場において充分な効果が得られていない現状がある.特に、脳血管疾患や中枢神経系難病によって重度の障害を負った患者において顕著である.こういった問題意識から、リハビリ及びケアの分野において先駆をなす国の一つであるスウェーデンにおける中枢神経疾患患者に対する拘縮予防のあり方について知るべく、同地を訪れて事例を調査して考察を加えたので報告する.<BR><BR>【方法】2000年から2008年にかけて、スウェーデンの複数の自治体において、主に回復期にあたる患者が滞在しているリハビリセンター、いわゆる維持期の障害者が暮らすサービスアパート、ケア付き特別住宅、住み慣れた自宅といったさまざまなシテュエーションで、以下に掲げる何れも痙性の強い患者に対する拘縮予防のための療法内容を抽出した.<BR><BR>【結果】いずれの患者も機能障害は重度であったが、拘縮はごく軽度に抑えられていた.そこで、拘縮予防に繋がるメニューを抽出した.1.療法士による定期的な治療だけでなく、ケア看護師(日本における准看護師に相当)によってケアの一環として日々におけるルーティーンのリハビリが施行されていた.2.体幹及び四肢における万遍ない持続的なストレッチングが施されるように工夫して療法士によって作成されたリハビリメニューが、ケア看護師やその他のケアスタッフにより励行されていた.3.手関節、手指、足関節といった拘縮を特に引き起こしやすい部位に対しては、拘縮予防を目的とした各種装具が医療的治療の一環としての扱いで無料もしくは極安価で処方されていた.4.オイルを用いた充分な時間(30分程度)をかけてのマッサージも拘縮予防を目的として無料で処方されていた.5.数十分に及ぶプール療法も、必要と判断されれば一般的に処方されている.6.大型の専用機器(レンタル代は無料)を用いた立位練習が自宅内において日常的に行われていた.<BR><BR>【考察】先行研究において、持続的なストレッチングは拘縮の予防に効果があるとされている.今回スウェーデンで経験した症例におけるリハビリの特徴は、生活のあらゆる場面において身体の各部位がストレッチングされる機会が確保されるように療法内容が工夫されている点にあると考えられた.こういった療法を施行できる背景には、保健医療法(HSL)という法制度面による裏付けがあることも明らかとなった.