- 著者
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山城 貢司
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-26
1 イスラーム伝統において、アラビア語の単語mi‘rajが預言者ムハンマドの神秘的天界上昇を表すのに用いられる理由が、(a) 天国と地上が宇宙的階梯によって結ばれているという世界観 (b) 預言者ムハンマドによるvisio Deiの可能性、という二つの神学的トポスを背景にしてのみ理解可能であることを示した。また、これらの神学的トポスがクルアーン自体に反映されている最初期のイスラーム思想に由来することを文献学的分析によって明らかにした上で、類似のユダヤ教伝承との比較考察を行なった。最後に、以上の議論に基づき、ミウラージュ伝承の発達について新たな見地を提示することを試みた。2 まず初めに『アダムの黙示録』の成立史を文献学的な手法によって解明した。これによって、『アダムの黙示録』が、「アダムとイブの生涯」と「セトの黙示録」という二つの資料と最終編纂者による加筆部分から構成されていることが判明した。続いて、この知見に照らして、『アダムの黙示録』におけるアイオーン論・救済史観・神話的構造(及びそれらのユダヤ的背景)について詳細に分析した。その際、セト派グノーシス主義における洗礼儀礼の位置付けに特に注意を払った。最後に、最終編纂者の手になると見られるグノーシス的救世主の由来についての従来ほぼ未解明だった謎歌(「13の王国の讃歌」)について、シンクレティズム的観点から体系的な説明を与えた。3 身体の延長としての道具の使用によって可能となった現象学的意味での時間抱握は、同時に神話生成と暴力の起源でもある。このテーゼの根拠づけと展開のうちにおいてこそ、アブラハム的一神教における身体性と救済思想の関係は考察されねばならない。このようにして、西洋キリスト教思想の終着点を、技術文明に内包された終末論の問題として論じることが可能となるであろう。