著者
山城 雅江
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.33-59, 2022-09-30

本稿はアメリカ市民宗教の中でも非常にポピュラーな象徴で,視覚に訴えるシンボルとして独自の地位を占める星条旗を扱う。先行研究で明らかなように,星条旗はその意味や使用方法,規則といった関連事項・習慣が,幅広い要素の相互作用や歴史的紆余曲折を経て創出されてきた,緊張度の極めて高い文化的構築物である。本稿では特にトランプ政権下という比較的に短い期間において浮き彫りになった星条旗に関わるいくつかのイシュー(愛国心をめぐる政治的駆け引き,国旗崇敬/冒涜,白人ナショナリズムとの関わり)を取り上げる。それぞれに関連する歴史・政治的文脈を概観し,星条旗の今日的な意味内容や使用の来歴・接合を確認する。その上で,今日の星条旗をめぐる表象や言説のせめぎ合いを検証し,トランピズムの部分的解析を試みるとともに,ナショナル・シンボルの意味構築・変遷と社会的コンテクストの輻輳に顕在化するアメリカ的自己表象の文化政治を考察する。