- 著者
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山岡 千鶴
栗田 修
- 出版者
- 日本醸造協会
- 雑誌
- 日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
- 巻号頁・発行日
- vol.110, no.7, pp.462-469, 2015-07
清酒の多様化を図る上での重要な要素は,味と香りの構成成分とその濃度であり,それらを変化させるための技術開発が求められる。清酒は,酒母工程で酵母を純粋培養することによって野生酵母の影響を受けずに安定した製造が行われてきた。酒質にはその酵母の特徴が反映されるため,清酒の多様化・高品質化を目指して,数多くの酵母が育種されてきた。味では多酸性酵母や高リンゴ酸生産性酵母,香りでは酢酸イソアミル高生産性酵母やカプロン酸エチル高生産性酵母が例として挙げられる。今や吟醸酒の製造にはカプロン酸エチル高生産性酵母が欠かせない存在となっているが,もろみ後半でのキレが鈍って低温長期もろみになりやすいという傾向やカプロン酸エチル過多により香味バランスが崩れる場合がある。そこで,これらの対策として,単一の酵母でなく,タイプの異なる複数の清酒酵母を用いて仕込む混合培養法がとられている。このように,清酒製造では,単一酵母の純粋培養だけでなく,同種酵母の混合培養が酒質の安定製造に重点をおいた手段として利用されている。一方,ワインにおいては,清酒が同種酵母の利用だけに留まるのに対して,古くから土着の微生物を積極的に利用している。発酵初期において,Kloeckera属やHanseniaspora属,Candida属,Pichia属やKluyveromyces属などの酵母が関与し,主発酵酵母であるSaccharomyces属がアルコール発酵する段階で死滅するが,これらの非ワイン酵母はワインの香りや味に作用している。例えば,混合培養にH. uvarumやC. stellataを用いるとワインの香り(アロマ)が向上することや,C. cantarelliiを用いると味に幅をもたらす効果のあるグリセロールが増加することが報告されている。筆者らは,清酒の多様化を図る手段として,このワイン製造における異種酵母の混合培養の考え方に着目し,清酒製造への導入を検討したので紹介する。