著者
中山 保之 坂宮 章世 船木 健司 栗田 修 矢野 竹男
出版者
日本食品工学会
雑誌
日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.133-143, 2015
被引用文献数
1

橙系サツマイモである隼人芋を原料とした干芋である"きんこ芋"ならびにきんこ芋製造時に廃棄されている表層部を活用した,2種類の新規芋焼酎の実用的レベルでの製造を行った.焼酎の製造にあたっては,米麹は白麹を用いて製麹,酵母は鹿児島4号酵母(C4酵母),水は地下水を使用した.きんこ芋ならびに天日乾燥させた表層部は,粉砕などの前処理をせずに用いた.仕込みは伊勢市内にある企業の焼酎製造工場の設備を用いて,二段仕込みで行った.きんこ芋からは酸度5.5,揮発性酸度0.5,アルコール濃度11.9%,表層部からは酸度7.4,揮発性酸度1.4,アルコール濃度10.9%,の最終二次もろみが得られた.きんこ芋から得たもろみは,焼酎にきんこ芋の香気特性を残すため,常圧蒸留を行った.一方,表層部から得たもろみは,焼酎に表層部に由来する臭気が残らないようにするため,減圧蒸留を行った.きんこ芋200 kgからは291 L, 表層部400 kgからは551 Lの原酒が得られた.それぞれの原酒はアルコール濃度25%となるように割り水して調整した後,720 mLの褐色ビンに充填した.香気成分の定量結果から,それぞれの芋焼酎は,対照とした市販3焼酎と比較すると,芋焼酎の特微香成分であるモノテルペンアルコール類の種類ならびに含有量が低かったが,市販3焼酎では検出されなかった,原料の橙系サツマイモ固有で,甘さを連想させる香気成分である,β-イオノンが含まれていた.それぞれの芋焼酎は22種類の香気成分の定量値を用いた因子分析および官能評価によって,特性分析を行い,それぞれ期待した通りの従来の芋焼酎とは異なる芳香特性をもつ製品であることが確認できた.
著者
鈴木 成宗 坂宮 章世 金澤 春香 栗田 修 矢野 竹男 苅田 修一
出版者
一般社団法人 日本食品工学会
雑誌
日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.59-69, 2016-06-15 (Released:2016-09-29)
参考文献数
36
被引用文献数
1

特徴的なクラフトビール用酵母を得ることを目的とし,三重県伊勢市の椎の樹液から採取した微生物群を用いて,ビール醸造を行い,発酵性態の良好であった菌叢からコロニーを単離した.得られた菌株は,ITS-5.8S rDNA-ITS2領域(ITS領域)の遺伝子解析を行い,新規のSacchromyces cerevisiae(S. cerevisiae)に属する株であることを確認し,KADOYA1と命名した.KADOYA1の実用性および特徴を評価するため,実用エール系ビール酵母株1056および3068を対照に,実用規模(1,000 L)でのビールの試験醸造を行った.KADOYA1は1056株および3068株と比較すると,醗酵速度がやや遅かったが,醗酵力は十分な実用性があることが確認できた.それぞれの酵母で醸造したビールの香気成分をGC-マススペクトロメトリーにより分析したところ,KADOYA1は1056株および3068株とは異なる特異的な香気成分の生産性をしていることが明らかとなった.さらに,におい識別装置で香気特性は評価したところ,1056株および3068株で醸造したビールとは異なる香気特性であることが確認できた.以上のことから,KADOYA1は実用ビール酵母として有用であると判断できたので報告する.
著者
山岡 千鶴 栗田 修
出版者
日本醸造協会
巻号頁・発行日
vol.110, no.7, pp.462-469, 2015 (Released:2016-01-20)
著者
山岡 千鶴 栗田 修
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.7, pp.462-469, 2015-07

清酒の多様化を図る上での重要な要素は,味と香りの構成成分とその濃度であり,それらを変化させるための技術開発が求められる。清酒は,酒母工程で酵母を純粋培養することによって野生酵母の影響を受けずに安定した製造が行われてきた。酒質にはその酵母の特徴が反映されるため,清酒の多様化・高品質化を目指して,数多くの酵母が育種されてきた。味では多酸性酵母や高リンゴ酸生産性酵母,香りでは酢酸イソアミル高生産性酵母やカプロン酸エチル高生産性酵母が例として挙げられる。今や吟醸酒の製造にはカプロン酸エチル高生産性酵母が欠かせない存在となっているが,もろみ後半でのキレが鈍って低温長期もろみになりやすいという傾向やカプロン酸エチル過多により香味バランスが崩れる場合がある。そこで,これらの対策として,単一の酵母でなく,タイプの異なる複数の清酒酵母を用いて仕込む混合培養法がとられている。このように,清酒製造では,単一酵母の純粋培養だけでなく,同種酵母の混合培養が酒質の安定製造に重点をおいた手段として利用されている。一方,ワインにおいては,清酒が同種酵母の利用だけに留まるのに対して,古くから土着の微生物を積極的に利用している。発酵初期において,Kloeckera属やHanseniaspora属,Candida属,Pichia属やKluyveromyces属などの酵母が関与し,主発酵酵母であるSaccharomyces属がアルコール発酵する段階で死滅するが,これらの非ワイン酵母はワインの香りや味に作用している。例えば,混合培養にH. uvarumやC. stellataを用いるとワインの香り(アロマ)が向上することや,C. cantarelliiを用いると味に幅をもたらす効果のあるグリセロールが増加することが報告されている。筆者らは,清酒の多様化を図る手段として,このワイン製造における異種酵母の混合培養の考え方に着目し,清酒製造への導入を検討したので紹介する。