著者
中澤 満 大黒 浩 間宮 和久 山崎 仁志
出版者
弘前大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

年度当初に立てた研究計画ではカルシウム結合タンパク質の変異が網膜変性にどのような影響を及ぼすかを遺伝子改変動物の作成ならびにRNA技術を用いた遺伝子発現抑制によって検討することであったが、この研究の準備を進める段階でヒト網膜色素変性モデル動物に対するカルシウム拮抗薬の視細胞保護効果を明らかにする必要性が新たに生じたため、まず第一に後者の実験を行うこととした。カルシウム拮抗薬による視細胞内のカルシウムイオンの変化がカルシウム結合タンパク質などを介した視細胞保護効果を持つかどうかを明らかにすることの方が臨床研究上より重要であると判断したためである。この実験においてヒト網膜色素変性モデル動物としてrds(retinal degeneration slow)マウスを入手した。このマウスは視細胞特異的な構造タンパクであるペリフェリン・rdsをコードする遺伝子の変異を持ち、ホモ接合体では視細胞外節の形成異常から網膜変性をきたす。そのヘテロ接合体は非常に緩徐な視細胞変性をきたし、ヒト常染色体優性網膜色素変性のモデルとされる。まず、rdsマウスとbalb/cマウスとの間にrdsヘテロ接合体を作成し、そのヘテロ接合体が経時的に緩徐な網膜変性をきたすことを観察した後、このマウスに生直後から腹腔内にニルバジピン(カルシウム拮抗薬の一種)を連日投与した。薬物投与群と非投与群(対照群)の網膜変性の進行度を網膜電図のa波、b波の振幅から比較検討したところ、投与群の方が統計学的に有意に網膜変性の進行が遅延していた。この結果、rdsマウスヘテロにおいてもカルシウム拮抗薬の視細胞変性抑制効果がみられることが明らかになった。次に、カルシウム拮抗薬投与による網膜内の遺伝子発現の変化をみるためマイクロアレイ法を用いた検索を行った。現在その結果を解析検討しており、次のカルシウム結合タンパク質の遺伝子変異を導入したモデル動物の作成を準備している段階である。