著者
山崎 元泰
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.123-143, 2016-06-30

ジュリアン・コーベットは主に20世紀初頭に活躍した英国を代表する海軍史家であり、かつ海洋戦略思想家である。彼はもともと法律家出身で軍務経験がなく、歴史や戦略に関する専門教育も受けていなかった。しかしながらコーベットは海軍問題に関する専門家として高く評価され、学術上の著作を数多く生み出すばかりでなく、海軍教育の分野でも多大な貢献をした。さらに彼は海軍省の実質的な顧問のような役割を果たし、晩年には日露戦争と第一次世界大戦における海戦を扱った公式戦史まで執筆している。このように生前は研究者として非常に大きな成功を収めていたコーベットであるが、死後、彼の存在は研究成果とともに急速に忘れ去られてしまう。第二次世界大戦後になって海外では次第に、コーベットの海洋戦略に対する再評価が進むようにはなったが、依然として十分ではない。同様に日本国内でも、近年コーベットが少しずつ取り上げられるようにはなっているものの、海軍戦略の権威はあくまで米国のマハンである。コーベットに関する言及が、ほとんどない戦略概説書もいまだ珍しくはない。本稿はコーベットの生涯と業績を概観することで、彼の海洋戦略思想に対する理解を促進し、わが国におけるコーベット研究のさらなる発展へとつなげていくことを意図したものである。