著者
山崎 捨夫 大井 修三 佐藤 亮平
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

我々は,鳴禽類の研究ではセキセイインコを被験体として音声コミュニケーション行動を神経行動学的アプローチで解析し,魚類の研究ではキンギョを被験体として視覚性振動刺激の認知について検討した。インコを被験体とした研究では,雌のインコを防音箱の中に入れ,同種の雄のSong(さえずり)を聞かせ、最初期発現遺伝子Zenkの産生物であるZENKタンパク質(ZENK)の発現を指標として,認知的な情報処理を行っている脳の部位を検討した。初年度の研究では,高次聴覚関連野(neostriatum caudale pars medialis ; NCM)のニューロンが,song(言語性音声)認知に関与していることを明らかにした。また,刺激Songの複雑度が増すにつれて、NCMにおけるZENK発現細胞数が増加した。次年度以降の研究では,この様な関連核としてNILが,また前脳部分ではfield L1,field L3,caudomedial neostriatumが関与していることを明らかにした。キンギョを被験体とした研究では,当初の予定とは異なり,聴覚性振動刺激の認知機構を調べるにあたり,聴覚刺激のみを使用するのではなく視覚的刺激を併用する形で認知機構を検討することが振動性刺激認知の解明に有用であることが分かってきたので,視覚性振動刺激として白黒縞模様を用い,その認知機構の解明を先に行うこととした。その結果,水平あるいは垂直方向の傾向情報の弁別が可能であることが分かった。さらに,この傾向情報からの偏角情報(傾角情報)をも認知情報として弁別方略に使用していることが明らかとなった。ただし,この傾角情報の弁別では,傾角が大きくなるに従い弁別能が低下していた。傾向と傾角の弁別方略においてどちらの情報を主に使っているかについては,被験体ごとでの一定した認知方略が認められなかった。