著者
山崎 百合香
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

これまでの研究により、ミツバチの働き蜂の育児蜂から採餌蜂の行動変化において、エクダイステロイド(変態ホルモン)情報伝達経路に関わる核内受容体遺伝HR38が脳のキノコ体(高次中枢)で女王蜂、育児蜂よりも採餌蜂で強く発現する事を発見し、働き蜂の分業を変態ホルモンが調節する可能性を提示した。変態ホルモンは変態時には脱皮を促進し、成体では生殖に関わる事が知られているが、このような脳での機能については不明である。ところで、エクダイステロイドは前胸腺と卵巣がその合成器官として知られているが、不妊化されている働き蜂においては卵巣が退縮しており、前胸腺も見つかっていない。しかしながら、卵巣の発達している女王蜂と同程度のエクダイステロイドtiterが働き蜂においても検出される。申請者はまず、働き蜂におけるエクダイステロイド合成場所の決定を試みた。(1)エクダイステロイド合成酵素遺伝子群の発現解析昆虫は植物に含まれるコレステロールをphantom、disembodied、shadow、shadeによってコードされるエクダイステロイド合成酵素によってエクダイソンや20-hydroxyecdysoneに変換する。これらの遺伝子についてRT-PCRを行うと、体中のどの組織においても発現が確認された。他の昆虫種においては、これらの遺伝子は前胸腺や卵巣で局所的に発現している。今回のように、さまざまな領域で発現が確認された例は初めてであり、ミツバチにおいては体内でのエクダイステロイド合成の仕方が特殊なのかもしれない。(2)さまざまな組織培養による分泌エクダイステロイド量の定量摘出した脳、下咽頭腺、脂肪体組織について培養液中で30℃12時間ほどインキュベートし、培養液中に分泌されたエクダイステロイドを抗エクダイソン抗体を用いたRIA法によって検出したところ、抗エクダイソン抗体との反応がみられた。この結果は変態時に変態ホルモンとして働くエクダイステロイドが成虫では脳からも分泌されていることを示唆する初めてのデータとなる。分泌されたエクダイステロイドは働き蜂の行動変化や生理状態変化を制御しているかもしれない。