著者
山形 敞一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.183-190, 1984-05-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12

1970年から1979年までの厚生省発表のによる全死亡数6,982,264名の年齢別死亡率によると, 胃癌では55~59歳, 胃潰瘍では75~79歳, 十二指腸潰瘍では35~39歳が最高である. また1970年から, 1979年までの日本病理剖検輯報の剖検数257,868名の年齢別死亡率によると, 胃癌では70~74歳, 胃潰瘍では65~69歳, 十二指腸潰瘍では25~29歳が最高である.次にわれわれが宮城県で実施している胃集団検診成績のうち1961年, 1966年, 1971年, 1976年, 1981年の受検者総数407, 695名の年齢別頻度によると, 胃癌では70歳, 胃潰瘍では65~69歳, 十二指腸潰瘍では29歳以下が最高である. すなわち, これらの成績は胃癌と胃潰瘍が典型的な老人病であることを示している.人間の生命維持に最も重要な機能の1つは消化吸収で, これに関与するのは胃液と膵液の分泌機能である.われわれは内視鏡的胃粘膜正常者245名について胃液分泌能を測定したところ, 胃液分泌量, 最高酸濃度, 最高ペプシン濃度はいづれも70歳を過ぎると減少する傾向を認めた. 次に膵疾患を除外された507名について膵液分泌能を測定したところ, 膵液分泌量, 重炭酸分泌量, アミラーゼ分泌量はいづれも加齢によっては減少しない. それで健康者の脂肪吸収試験を行ったところ, 脂肪1日摂取量が30g以下では加齢による脂肪吸収の滅退はみられないが, 脂肪1日摂取量が35~40gになると, 70歳以上では滅退する傾向を認めた. したがって, 健康な老人では食餌量が適量であれば加齢による消化吸収の障害はみられない.最近日本人の平均寿命が伸びて世界1の長寿国となったが, 文献によると, 日本人は従来から長寿だったようである. 古代中国の史官陳寿 (233~277) の記した「魏志倭人伝」によると, 3世紀の日本人の寿命は百歳であった. また江戸時代の医学者貝原益軒 (1630-1714) の著わした「養生訓」(1713), 香月牛山 (1656-1740) の著わした「万民必用長命養生訓」(1716) でも, 日本人の寿命は百歳と記されている.ドイツの医学者 Christoph Wilhelm Hufeland (1762-1836) はその著書のなかで天寿二百歳説を提唱したが, これを現代日本人にあてはめると天寿120歳となる. また, 約140億の脳細胞が全部死滅するのは190歳と算出されているから, その過半数が残存する120歳位を天寿としてよいと考えている.われわれは, 今後天寿120歳を目ざして研究をすすめるべきであると考える.