著者
山本 憲志郎
出版者
THE TOHOKU GEOGRAPHICAL ASSOCIATION
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.81-97, 1987
被引用文献数
1

北海道・暑寒別岳東側斜面において, 緩斜面と河成段丘面の編年および最終氷期以降の古環境の復元を試みた。<br>最終氷期初期~約40,000yr B. P. あるいはそれ以前の間に, 段丘I・II面が順次形成された。その後約20,000yr B. P. までの間に, 緩斜面Iと段丘III面が形成された。緩斜面I形成期は, 堆積物の層序関係より段丘II面形成後から段丘III面形成以前であると考えられる。緩斜面I堆積物は, 下部に長軸が斜面の最大傾斜方向によくそろう角礫層を持つことから, 寒冷で比較的湿潤な環境下における gelifluction によって形成されたと考えられる。この角礫層上位の細粒層の存在は斜面で乏しい水量による洗い出し作用が卓越したことを示しており, 約20,000yr B. P. に至るまでの乾燥化に対応した現象とみることができる。段丘II面 (形成終了は約40,000yr B. P. あるいはそれ以前) およびIII面形成期 (終了は約20,000yr B. P.) は, 段丘I面形成期 (最終氷期初期) より寒冷で, 谷壁からの凍結破砕による岩屑供給が盛んであり, 降水量も少なかったことがその厚い堆積物, 礫の低円磨度, 高い堆積岩礫含有率, 最大礫径が小さいことなどから推定される。段丘III面形成期の古環境は, 緩斜面Iから推定される古環境と矛盾しない。<br>約20,000yrB. P. ~現在までに, まず段丘IV面が形成され, その後緩斜面IIと段丘V面が形成された。緩斜面II形成期は, 段丘IV面形成後から段丘V面形成以前と考えられる。緩斜面IIは, Younger Dryas 期あるいは Mesoglaciation 期の寒の戻りに, gelifluction によって形成を開始したと考えられる。段丘IV・V面堆積物の諸特徴は段丘II・III面のそれと対照的であることから, 前2者がより温暖で湿潤な環境下で形成されたと推定される。