著者
山本 晋
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.133-144, 2003-05-10

大気境界層は大気と陸面間の熱的,力学的相互作用と物質交換に重要な役割を持っている。そこでタワー,飛行機などを観測プラットホームとした野外観測により,陸面と大気間の熱,運動量,微量物質の交換過程,大気境界層の構造を解明してきた。研究の成果は大きく分けると1)大気境界層の構造の解明とそこでの大気汚染物質の拡散モデル構築,2)地球温暖化問題との関わりでは二酸化炭素の循環,収支の解明と森林生態系のC0_2吸収能の評価に応用されてきた。第1の課題では飛行機観測においては晴天時,日中に平坦陸地上に形成され,高度1500m程度に及ぶ混合層の解析を中心に行った。高タワー観測においては,観測高度が300m程度までであることを考慮して,晴天時の夕方から夜半にかけて高度200m以下に形成される安定接地境界層と早朝から日中にかけての比較的低高度の現象である安定接地境界層解消・混合層形成初期過程を重点的に調べた。第2では大気と森林生態系間のC0_2正味交換量(NEE)を野外でのタワー観測に基づき調べ,NEEと気象条件の関係, NEEの季節・年々変化を解明した。岐阜県高山の冷温帯落葉広葉樹林での1993年からの観測ではNEEは平均1.8tC/ha/年であるが,その年々変動は大きい。なお,日本の代表的な森林での観測から2から5 tC/ha/年程度という結果が得られているが,これらの結果は温帯林がC0_2の吸収源であることを示している。しかし,陸上植物生態系のグローバルな吸収・固定量を推定するには,気候,緯度などの異なる諸地域での多様な植物種に対する結果を更に集結し,総合的に解釈することが必要である。