著者
山神 真紀子 鈴木 秀男 長谷川 就一 中島 寛則 平生 進吾 若松 伸司
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.273-283, 2008-09-01
参考文献数
31
被引用文献数
6

名古屋市における国道23号沿道において,PM_<2.5>およびoptical black carbon (OBC)の測定を2003年9月30日から10月10日まで行った。その結果,PM_<2.5>の平均濃度は76.5μg/m^3 (n=234),OBCの平均濃度は15.5μg/m^3 (n=241)であった。OBCがPM_<2.5>に占める割合は平均22.3%であった。OBC濃度と大型車交通量との間には正の相関があり,特に道路に対して風下,風速3m/s以上の条件では強い相関関係が見られた。また,同時にelemental carbon (EC)も測定し,OBCとECとの間には直線関係が見られた。これらの関係とNO_x濃度を用いてECの排出係数を推定したところ大型車に対して368mg/km・台という値が得られた。また,拡散計算を用いてECの排出係数を推定した結果は大型車に対して261mg/km・台であった。また,一般環境中における一日ごとのPM_<2.5>とECの測定を2005年1月から2006年12月まで行った。その結果,PM_<2.5>の2005年の平均濃度は23.1μg/m^3 (n=193),2006年は24.6μg/m^3 (n=182)であった。ECは2005年,2006年ともに平均濃度が3.2μg/m^3となり,ECがPM_<2.5>に占める割合は,2005年が15%,2006年は14%であった。また,EC濃度は月曜日から金曜日までの平日は濃度が高く3.5μg/m^3であるのに対し,日曜日には2.0μg/m^3となり,平日よりも約40%濃度が低下していた。求めた排出係数を用いてADMER(産総研一曝露・リスク評価大気拡散モデル)を用いて2005年の大気中濃度を,月別に推計したところ,計算値のEC濃度変動は実測直の変動と類似したものとなった。
著者
向井 人史 田中 敦 藤井 敏博
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 = Journal of Japan Society for Atmospheric Environment (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.86-102, 1999-03-10
被引用文献数
8

日本各地の降雪中の鉛の安定同位体比を調査した。雪は北海道から島根県までの広い範囲で1990年と1992年に採取した。雪中の鉛は硝酸で抽出し, 濃縮, 電着による処理によって分離されICP-MSで分析した。雪が降ったときの流跡線によって同位体比をまとめ, それぞれの発生源地域の特徴を解析した。中国の北部や, 中国中部から朝鮮半島を経由して来た気塊によって降った降雪中の鉛同位体比は, 日本の都市の鉛同位体比とは明らかに異なる同位体比を持っており, アジア大陸起源の鉛の特徴と合致していた。ロシア起源と思われる気団からの降雪では, いくつかのサンプルは日本の鉛同位体比と良く似た値のものが存在した。これは, 特異的な値を持つロシアの鉛鉱山の影響か石炭起源の鉛の影響が考えられた。鉛と亜鉛の比は, 日本の影響があったサンプルでより低く, 大陸起源の気団では高い傾向があった。これらの傾向は, これまで測定されていた大気粉塵の傾向とかなり一致するものであったことから, 鉛同位体比は降雪中でも鉛の地域性を示す良い指標になると考えられた。降雪中には多くの場合石炭フライアッシュが存在し, 大陸での石炭の使用との関連が推測された。酸性成分濃度と鉛の濃度とは弱い正の相関があったが, 必ずしも一致しているというわけではなかった。
著者
吉門 洋
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.188-199, 2004-07-10
参考文献数
13
被引用文献数
8

近年再び高濃度化が注目されている光化学オキシダント(O_X)について,特に注意報発令レベルの高濃度の発生状況が系統的に変化したかどうかを概括的に調べた。対象地域は東京都・埼玉県と群馬県南東部に絞り,1989〜91年と1999〜01年の各3年の6〜8月の間の差異に注目した。まず昼夜別平均濃度や日最高濃度の出現頻度分布を岬べた結果,10年の期間に昼間(5〜20時)平均で若干の例外を除き4〜14ppb(体積混合比),夜間平均でも2〜8ppb上昇し,一日最高濃度が60ppb未満の日の比率は全域平均で66%から50%へ減少する一方で,東京・埼玉には120ppb以上の高濃度の出現頻度が23日から50日というように倍加した地区が多いことがわかった。対象期間中の広域気象条件を毎日の天気図により概括判定した結果,90年頃より2000年前後には梅雨期を含む夏季に高気圧圏内に入る日が増加したことがわかった。高気圧圏内の日が増加すれば局地風発連日の増加が予想され,簡単な判定基準による判定の結果,その事実が確認された。好天日の増加はそれだけで平均気温の上昇や期間積算紫外線入射量の増加につながる可能性もあり,0x高濃度の増加要因の一つに数え得る。東京湾から埼玉南部への海風の内陸進入パターンに注目して,その速度の速い日と遅い日のグループを抽出した。10年の間で速い日の頻度が増加している。速い日は東京や埼玉南部のO_X濃度レベルにはあまり変化がなく,より内陸部で90年頃よりも高濃度になっている。遅い日のグループでは全域的に午後のO_X濃度が大幅に増加したことがわかった。局地風とO_X濃度のこれらの変化が重なって,全般的なO_X濃度上昇傾向の中でも地域的な強弱の差が生まれたといえる。
著者
川村 知裕 原 宏
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.335-346, 2006-11-10
参考文献数
30
被引用文献数
3

2000年以降,日本での黄砂観測数が増加し,黄砂に対する関心が高まっている。日本の降水に対する黄砂の広域的・長期的影響を明らかにするため,10地点,1998年〜2002年の降水データを解析した。気象官署による黄砂観測記録に従って,降水を観測地点周辺で黄砂が観測されたときの降水(KR),観測地点周辺以外の地点で黄砂が観測されたときの降水(SR),日本で黄砂が観測されなかったときの降水(NR)の3つのタイプに分類した。KRはpHが高く,nss-Ca^<2+>濃度の増加が見られた。これは黄砂の主成分であるCaCO_3が降水中に溶解したためと考えられる。黄砂時の降水はnss-SO_4^<2->, NO_3^-, NH_4^+の濃度も高かった。これは,黄砂と共にNH_3, NH_4^+など大陸から輸送されたものが溶解したためと考えられる。黄砂時と非黄砂時の降水の沈着量の差から黄砂に起因する湿性沈着量を見積もったところ,nss-Ca^<2+>の年間沈着量の18%,春期沈着量の39%を占めた。また,年別では2000〜2002年,地点別では北日本および日本海側で,nss-Ca^<2+>湿性沈着量が増加し,黄砂の寄与が大きいことが示された。反対に,H^+では黄砂により降水中の酸の中和が進むため,沈着量は減少する。しかし,土壌での硝化を考慮すると,黄砂によるNH_4^+の沈着量も多いため,H^+の沈着減少効果は打ち消され,土壌酸性化の効果がある。降水化学の測定値から,pHや濃度だけでなく,沈着量を評価する必要が強調される。
著者
畠山 史郎 片平 菊野 高見 昭憲 菅田 誠治 劉 発華 北 和之
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.158-170, 2004-05-10
被引用文献数
10

近年関東周辺山岳域で見られる森林衰退の原因・として大気汚染物質の影響が重要ではないかといわれている。しかし,この地域でのこれまでの観測は電源の都合により,長期的な観測が出来ず,そのため観潮時の天候に大きく影響されて,大気汚染の影響が十分把握されていない。本研究では電源に太陽電池を用いることにより,実際に森林被害の激しい前白根山山頂付近で,大気汚染物質であるオゾン(O_3)を,約3ヵ月にわたって長期的に観測することで,この地域でのO_3濃度変化を明らかにした。更に高濃度O_3が現れる頻度やその起源,それらが出現する気象条件を考察した。その結果,今回の観測では,期間中の最高濃度は1時間平均値で70ppb弱であり,過去に観測された100ppbを超えるような高濃度は観測されなかった。また,長期間の統計的なO_3濃度変化を調べることにより,この地点でO_3が高濃度になるのは夏季の卓越した南風に加えて,日射強度が大きい時であることが分かった。これは強い日射により,都市域で発生した一次汚染物質が光化学反応を起こしながら,広域な海陸風循環によって輸送されてきた為であると考えられた。また,9月以降の秋季には03の平均濃度が上がると共に日食化か小さくなった。これは山頂付近では自由対流圏大気の影響が大きくなり,アジアのバックグラウンドオゾンが輸送されていて,関東平野部からの汚染空気の寄与が小さくなるためと考えられた。
著者
坂本 美徳 吉村 陽 小坂 浩 平木 隆年
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.201-208, 2005-09-10
被引用文献数
3

光化学オキシダント(O_x)の原因物質が週日に比べ週末に減少するにもかかわらず, O_xは増加するというweekend effectと呼ばれる現象が米国等で報告されている。1976〜2003年度の大気汚染常時監視データを用いて, 兵庫県におけるweekend effectの有無を検討した。解析した全13測定局でweekend effectは認められ, 全測定期間をとおした全測定局平均の週日と週末の差は, 一酸化窒素(NO), 窒素酸化物(NO_x)及び非メタン炭化水素(NMHC)はそれぞれ-34%, -27%, -16%であるのに対し, O_xは6%であった。weekend effectは地域差があり, 全測定期間をとおしたO_xの週日と週末の差の最大は尼崎市の11%で, 最小は丹波市の1%であった。O_xの週日と週末の差が最大であった1997年度の尼崎市の曜日別の経時変化で, 週日に比べてO_x濃度が高かったのは, 土曜日の午後及び日曜日の終日であった。兵庫県におけるweekend effectの原因として, (1) NO排出量の減少, (2) O_xの生成条件がVOC-limitedの時のNO_x排出量の減少について考察した。
著者
近藤 裕昭 劉 発華
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.179-192, 1998-05-10
被引用文献数
48

1次元の都市キャノピーモデルを作成し, 都市の熱環境を調べた。メンスケール気象モデルの水平1格子程度の空間(数km四方)のビルの配置を簡略化して取り扱い, 平均ビル幅, 平均道路幅, ビルの高度分布をパラメータとして, 道路面や各高度の壁面・屋上面における平均的な熱収支を計算して顕熱量を求めた。また, 人工廃熱も高度別に与えるようにした。すべてのビル高度が33mとした場合, ビル幅と道路幅が30mの時, キャノピーの地上3mの気温はビルが無い場合に比べて午後から夜間にかけて約1K上昇した。道路幅を狭くすると昼間の気温は更に上昇するが, 夜間は気温が下がる傾向を示した。東京駅付近の人工廃熱量の日変化を与えて計算すると, ビルが存在すると地表付近の気温上昇はビルが無い場合に比べて大きく, また廃熱源が地上付近にあった場合の方が屋上に廃熱源を置いた場合に比べて温度上昇が大きいことが示された。
著者
孟 岩 老川 進
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.136-147, 1997-03-10
被引用文献数
9

モデル建物群内の流れ場と拡散場を調べるために風洞実験を行った。本研究のその1では建物群内外における平均速度および乱れの構造を詳細に調べた。モデル建物は, 高さ8cmの立方体を用い, その配置を千鳥状とした。また, 建物の密度を10%から40%まで変化させた。流れ方向と鉛直方向の速度成分の計測は, 乱れのレベルが高いかつ逆流に伴う流れ場を測定できるスプリットファイバープローブを用いて行った。その結果, モデル建物群内の流れ場は, 建物密度を指標として, isolated roughness flow, wake interference flow および skimming flowと呼ばれるような三つのパターンに区分されることが明らかとなった。建物密度の増大に伴い, 建物群内の流れ方向の速度が次第に小さくなり, 建物密度が40%の時にほぼ0となる。また, 建物屋根面上の流れの剥離に伴う大きな乱れの生成は, 建物密度が20%を超えると殆ど見られなくなる。
著者
松村 秀幸 小林 卓也 河野 吉久
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.16-35, 1998-01-10
参考文献数
92
被引用文献数
10

針葉樹のスギとウラジロモミおよび落葉広葉樹のシラカンバとケヤキの苗木に, 4段階の濃度のオゾンと2段階のpHの人工酸性雨を複合で20週間にわたって暴露した。オゾンの暴露は, 自然光型環境制御ガラス室内において, 1991および1992年に観測した野外オゾン濃度の平均日パターンを基準(1.0倍)とした0.4,1.0,2.0および3.0倍の4段階の濃度で毎日行った。オゾン濃度の日中12時間値(日最高1時間値)の暴露期間中平均値は, それぞれ18(29), 37(56), 67(101)および98(149)ppbであった。人工酸性雨の暴露は, 開放型ガラス室内において, 夕方から, pH3.0の人工酸性雨(SO_4^<2-> : NO_3^<3-> : Cr=5 : 2 : 3,当量比)および純水(pH5.6)を, 1週間に3回の割合で, 1時間あたり2.0〜2.5mmの降雨強度で1回8〜10時間行った。シラカンバとケヤキでは, 2.0倍および3.0倍オゾン区において白色斑点や黄色化などの可視障害が発現し, 早期落葉も観察された。ケヤキでは, pH3.0の人工酸性雨区においても可視障害が発現したが, シラカンバでは人工酸性雨による可視障害は全く認められなかった。スギとウラジロモミでは, オゾンあるいは人工酸性雨の暴露による葉の可視障害は全く認められなかった。最終サンプリングにおけるスギ, シラカンバおよびケヤキでは, 葉, 幹, 根の各器官および個体の乾重量はオゾンレベルの上昇に伴って減少した。ウラジロモミでは, 根乾重量がオゾンレベルの上昇に伴って減少した。一方, pH3.0区におけるウラジロモミおよびケヤキの葉および個体の乾重量はpH5.6区に比べて減少した。また, スギ, シラカンバおよびケヤキの純光合成速度はオゾンレベルの上昇に伴って減少した。シラカンバおよびケヤキでは, 葉内CO_2濃度-光合成曲線の初期勾配である炭酸固定効率もオゾンレベルの上昇に伴って低下した。ウラジロモミではオゾン暴露によって暗呼吸速度が増加した。さらに, pH3.0区におけるウラジロモミおよびケヤキの暗呼吸速度もpH5.6区に比べて減少した。オゾンと人工酸性雨の交互作用は, 供試したいずれの4樹種の地上部と根の乾重量比(T/R)において認められ, オゾンレベルの上昇に伴うT/Rの上昇の程度がpH5.6区に比べてpH3.0区において高かった。
著者
田子 博 今井 克江 大谷 仁己 嶋田 好孝
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.339-346, 2003-09-10
被引用文献数
5

三宅島からの火山ガスが群馬県山岳部の霧水に与える影響を見るために,赤城山において霧水の採取および分析を行った。三宅島からの火山ガス放出量が急激に増大した2000年9月以降,霧水中の硫酸イオン濃度が増加し,pHおよびNO_3^-/nss-SO_4^<2->(N/S)が低下した。また,これまでに観測されたことのなかったNO_3^-/nss-Cl^-が1以下となる霧が7回観測されたが,この場合必ずN/Sの大幅な低下を伴っていた。これは,火山ガスの主成分である二酸化硫黄と塩化水素が同時に取り込まれたと考えられ,特に2000年9月14日にはほとんどが硫酸と塩酸で構成された特異的な霧水(pH 2.99)が観測された。このときの霧水中のN/Sは0.07と極めて低かった。このような特異的成分を持つ霧が観測された時期には,地上における二酸化硫黄濃度の実測値あるいは広域拡散シミュレーションの計算結果からも群馬県内に高濃度の二酸化硫黄が移流してきたことが確認されており,三宅島からの火山ガスが赤城山の霧水中の硫化イオンを増大させ,pHを低下させたことがわかった。
著者
近藤 隆之 神保 高之 奥村 秀一 大西 勝典
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.282-288, 1999-07-10
参考文献数
12
被引用文献数
3

拡散型ポロメータにより観葉植物の気孔コンダクタンスを測定し, 観葉植物のホルムアルデヒド吸収能力を比較するとともに, その室内汚染改善効果について検討を行った。南向きの窓辺に置いた10種類の観葉植物の日中の気孔コンダクタンスは, 0.01(パキラ)〜0.10mol m^<-2s>s^<-1>(シンゴニュウム)の範囲にあり, シンゴニュウム, スパティフィラム, ベンジャミンが気孔コンダクタンスが大きく, ホルムアルデヒド吸収能力の大きい観葉植物といえる。シンゴニュウム, スパティフィラム, ベンジャミンの気孔コンダクタンスの個体差はいずれも比較的小さかった。この3種類の観葉植物の9時から17時までの気孔コンダクタンスの変動パターンは光合成有効放射量の変動パターンと類似していた。質量収支モデルによる試算から, 喫煙者のいる会議室内にスパティフィラムを1鉢(総葉面積0.9m^2)置くことにより, 室内ホルムアルデヒド濃度は平均5%低くなると予測され, 観葉植物が室内汚染の改善に寄与することが確認できた。
著者
早崎 将光 大原 利眞 黒川 純一 鵜野 伊津志 清水 厚
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.225-237, 2008-07-10
被引用文献数
14

2007年5月8-9日に観測された注意報レベルに達するオゾン(O_3)高濃度事例を対象として,全国の1時間平均大気汚染物質濃度測定値を用いた動態調査をおこなった。O_3濃度上昇は,8日の早朝に日本列島西端の五島から観測され始めた。壱岐における日最高O_3濃度は深夜に観測された,日本海沿岸では,日最高O_3濃度は東側ほど遅い時刻で観測された。離島では,二酸化硫黄と粒子状物質もオゾンと同期した濃度変化を示した。後方流跡線解析とライダーによる人為起源粒子の鉛直分布から,汚染気塊はアジア大陸を起源とすることが示された。9日は主に東日本でO_3高濃度を観測した。日本海側では,前日と同様に東側ほど遅い時刻で日最高O_3濃度を観測した。それに対して,関東平野では観測時刻の遅れは内陸側に向かう方向でみられ,O_3濃度も日を追う毎に高くなった。高濃度期間の汚染物質濃度と気象条件の時空間変動から,関東平野では,大規模海陸風循環の継続による都市汚染の蓄積の影響も大きいことが示唆された。以上の結果から,日本列島規模の広範囲では越境汚染がO_3高濃度の主要因であり,都市近郊では国内起源汚染がそれに上乗せされていたと考えられる。
著者
鹿角 孝男 川村 實 薩摩林 光 西沢 宏 村野 健太郎
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.75-80, 2002-01-10
被引用文献数
3

2000年8月から9月にかけて,関東,中部,東海地方の広い範囲で環境基準を超える高濃度の二酸化硫黄(SO_2)が観測され,異臭騒ぎが発生した。長野県内でも高濃度のSO_2が観測され,9月13日の1時間値の最高濃度は県南部の飯田市で383ppbを記録し,北部の長野市でも76ppbに達した。後方流跡線の解析結果から,これらは活発に活動している三宅島の火山ガスが原因であると考えられた。このような火山ガスの影響を調べるため,長野県北部の長野市,八方尾根および白馬村において4段ろ紙法によるガス・エアロゾルの測定を実施した。その結果,エアロゾル中の硫酸イオン(SO_4^2-)は9月14日10〜14時に長野市で44.4μg/m^3の高濃度が出現し,八方尾根と白馬村でも15日12〜18時に30μg/m^3を超えた。陰イオンの過剰分を水素イオン(H^+)と仮定して算出した3地点の粒子状硫酸(H_2SO_4)の濃度は,長野市,八方尾根,白馬村でそれぞれ21〜33,11〜21,6.8〜18μg/m^3の範囲内にあると推定され,SO_4^2-に占めるH_2SO_4の比率(モル比)は,それぞれ46〜72,34〜65,22〜58%と,濃度,比率とも極めて高い値であったと推定された。
著者
吉門 洋 魚崎 耕平
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.63-75, 2000-01-10
被引用文献数
4

濃尾平野を中心とする愛知・岐阜両県の大気汚染データを用い,1994〜1996年度の3年分について気象データと合わせて高濃度解析を行った。他の主要な都市域と同様に,長期的に高濃度が問題となっているのは浮遊粒子状物質(SPM)および窒素酸化物(NOおよびNO_2)であり,季節的には11〜12月に集中するため,解析はこの季節にしぼった。高濃度汚染に関与する気象学的構造を解明するため,SPM濃度が地城中で最も高いレベルにある名古屋市中心部の測定局を代表局として高濃度日(日平均100μgm^<-3>以上)36日を抽出した。対象期間2か月×3年のうちの20%に当たるこれらの日の平均状況を調べた。代表局に対して周辺部の主要測定局の状況を比較すると,名古屋から南南東方向に知多湾東岸に沿って延びる工業地域では同等の高濃度が出現し,しかも夕方から夜の最高濃度の出現は南へ行くほど遅い。この方角以外の局では濃度レベルがかなり低い。このような濃度分布とその変動は,日中も弱い北西風が持続する傾向に加えて,夕方以降の接地層の安定化とともに,平野東方の丘陵地帯からの冷気流が成長し,名古屋から南南東の上記帯状地域で北西風と収束することにより,目立つものとなっている。これと比べ,関東の場合は,東京より内陸側に形成される広いよどみ域で高濃度が現れるのであり,高濃度形成プロセスが全く異なっていることがわかった。
著者
森 淳子 宇都宮 彬 鵜野 伊津志 若松 伸司 大原 利眞
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.73-89, 1997-03-10
被引用文献数
14

1990年から1992年, 九州北部の2地点(対馬と福岡県小郡)においてエアロゾル観測を実施した。大気中での寿命が長く広域汚染の原因と考えられる硫酸粒子(サルフェート)については両地点において一致した挙動がみられた。一方, 硝酸粒子(ナイトレート)とアンモニア粒子は観測地点周辺の影響を受け, 内陸に位置する小郡では, 離島の観測地点である対馬に比べ両イオンの濃度が高かった。1991年6月と1992年2月に両地点でS0_4^<2->を中心に高濃度現象がみられた。1992年2月の観測データのイオンバランスの解析から, 対馬では酸性のNH_4HS0_4粒子の存在が示された。この2つのエピソードを中心に, 観測データとトラジェクトリー解析により輸送過程の解析を行った。1991年6月は典型的な梅雨期の気象条件であった。九州北部地域が梅雨前線の南部に位置する場合には太平洋高気圧下で低濃度, 北部に位置する場合には高濃度となった。これは, 大陸・朝鮮半島の大発生源から排出された汚染物質が前線の北部に滞留・変質しつつ前線付近に北西の気流によってもたらされたことが一因と考えられた。これらの結果は, 梅雨期においても大陸起源の高濃度の汚染物質の長距離輸送が生じることを示している。一方, 1992年2月に観測されたサルフェートなどの高濃度現象は, 西高東低の気圧配置下において北西季節風によって大陸からもたらされたと考えられる。低気圧は北緯23〜30。付近の日本の南岸を次々と通過し, その後に中国大陸東岸付近に高気圧が張り出し西高東低の気圧配置が出現している。この条件下で吹き出した北西風により大陸からの高濃度汚染物質が九州北部に輸送されたと考えられ, 冬型の気象条件下での高低気圧の通過が長距離輸送の要因であることが示された。
著者
大原 利眞 若松 伸司 鵜野 伊津志 安藤 保 泉川 碩雄 神成 陽容 外岡 豊
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.6-28, 1997-01-10
被引用文献数
14

局地気象数値モデル(メソスケール気象モデル)と光化学反応を含む大気汚染物質の輸送モデル(光化学グリッドモデル)を組み合わせて, 夏季における光化学オキシダント高濃度現象の3次元数値シミュレーションモデルを構築し, 関東地域に適用して検証した。構築したシミュレーションモデルの特徴は, 4次元データ同化手法を用いた局地気象数値モデルと詳細な光化学反応を含む汚染質の輸送モデルを組み合わせた3次元モデルであること, 最新の光化学反応モデルと乾性沈着モデルを使用していること, 生物起源炭化水素の影響を考慮していること, 推計精度が比較的高い発生源データを使用していること等である。夏季の光化学オキシダント高濃度期間として, 立体的な特別観測が実施された1981年7月16日4時から42時間を対象に, 本モデルを用いてシミュレーション計算した。その結果, 光化学オキシダント及びNO_X, NO_2濃度の地域分布や時間変動パターン等について良好な現況再現性が得られた。また, 米国EPAによって示されているモデルの目標水準と比較した結果, その水準を上回っていた。更に, 航空機観測によって得られた上空濃度分布も定性的には再現することができた。
著者
大原 利眞 鵜野 伊津志 黒川 純一 早崎 将光 清水 厚
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.198-208, 2008-07-10
参考文献数
24
被引用文献数
22

2007年5月8,9日に発生した広域的な高濃度オゾン(O_3)エピソードの特徴と発生原因について,日本全国の大気汚染測定データと東アジアスケール化学輸送モデルを用いて解析した。全国の測定局で観測されたO_3濃度は,5月8日の朝9時ごろに九州北部で高濃度となり始め,15時には壱岐や五島といった離島を含む九州北部や中国地方西部において120ppbvを超える高濃度となった。高濃度は夜になると低下したが,21時においても西日本の一部の測定局では120ppbvを超える状態が持続した。翌日5月9日9時の濃度レベルは前日よりも全国的に高く,15時になるとO_3の高濃度地域は,北海道や東北北部を除く日本全域に拡大し,関東,中京,関西などの大都市周辺地域や,富山県や新潟県などの北陸地域や瀬戸内地域の測定局において120ppvb以上を観測した。化学輸送モデルは5月7〜10日に観測された地上O_3濃度の時間変動をほぼ再現するが,ピーク濃度レベルを過少評価する。この傾向は,中国沿岸域北部・中部の排出量を増加するに従って改善される。モデルで計算された5月7〜9日の地上付近のO_3濃度分布によると,空間スケールが500kmを越える80ppbv以上の高濃度O_3を含む気塊が,東シナ海上の移動性高気圧の北側の強い西風によって,中国北部沿岸から日本列島に輸送されたことを示す。5月8,9日に日本で観測された高濃度O_3には,中国や韓国で排出されたO_3前駆物質によって生成された光化学O_3に起因する越境大気汚染の影響が大きい。80ppbv以上の高濃度O_3に対する中国寄与率の期間平均値は,青森県以北を除く日本全国で25%以上であり,九州地域では40〜45%に達すると見積もられた。しかし,本研究で使用したモデルは都市大気汚染を充分に表現していないため,大都市域周辺等では越境汚染の寄与率が異なる可能性がある。また,モデル計算結果ならびに地上大気汚染測定局とライダーの観測結果から,O_3とともにSO_2や人為起源エアロゾルも越境汚染していたこと,これらの物質は高度1500m以下の混合層の中を輸送されたことが明らかとなった。
著者
渡辺 幸一 名取 千晶 朴木 英治
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.122-128, 2005-06-10
被引用文献数
4 4

2003年秋期に立山において霧水の採取・分析を行った。霧水のpHは, 中腹の美女平で4.1〜5.0, 山頂に近い室堂平で3.3〜5.1であった。美女平では海塩起源成分がしめる割合が高く, 立山が比較的海岸に近いためであると考えられる。霧水中のNO_3^-/nss-SO_4^<2->(N/S)は美女平で高く, 室堂平で低かった。pHが4以下の強い酸性霧は室堂平でしばしば観測され, 酸性霧中の硫酸イオン濃度が高かった。今回の観測期間中で最もpHが低い霧水が観測された9月19日について後方流跡線解析を行った結果, 大陸の汚染物質の影響を強く受けている可能性が示唆された。