著者
山本 純ノ介 ヤマモト ジュンノスケ Yamamoto Junnosuke
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.397-412, 2010-03

現在日本の音楽創作状況は良くも悪くも多様化しすぎている。音楽特性の絶対性を追求した作品は極端に少なくなり,標題やコンセプト中心作品がほとんどである。後者は世界的に現代音楽の流れもあり,否定するものではないがいずれもその音楽作品としての質の追求が疎かになっていないだろうか。珍しさを追求するあまりに音そのものを「紡ぐ」作業が軽視されていないだろうか。興味本位のコンセプト音楽からはあらたな創作や表現の発見はあるかもしないが,過去の歴史的作品を陵駕する価値を伴った作品が生まれる土壌はない。今後さらに質の高い「音楽」とはかけ離れた方向へ流されてしまう懸念が拭えない。音楽家の基本は歌う事であり,その延長線上に和声や対位法,作曲技法(十二音技法も含めて)等が展開され,同時にピアノなどの楽器の演奏技法の開発や楽器そのものの発達に繋がりながら,合奏へと発展し管弦楽法や電子音楽といった分野が興隆,発展してきた。今一度音楽の根本である音楽を見つめる姿勢,作り手の姿勢も含めた「作曲,歌う,聴く」つまり創作,演奏,鑑賞の根本に戻った作品の創作を実践したいと考え声楽のアンサンブルであり,ルネッサンス,バロック,古典,ロマン,近現代いずれの時代にも一貫して作曲されている a cappella の作品創作に着目し,その実践作品についての考察と分析を論じる。