著者
山本 香代子
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】妊婦や授乳婦への薬物治療や服薬指導に際しては、医薬品の妊婦授乳婦における安全性や、胎児乳児への影響に関する十分な情報が得られないことが多くあり、服薬可否の判断が困難なケースも少なくない。また、すでに安全性や危険性の根拠が示されている医薬品についても、その情報を正確に入手することは容易でなく、解釈に専門的な知識を要することも多くある。そこで本研究では、妊婦授乳婦への服薬指導の標準化を目的として医薬品情報の収集手順や指導方法の確立を行うと共に、その有用性評価を行った。【方法】1.妊婦授乳婦への医薬品情報を収集する上で有用な情報源やその特徴を一覧表にすると共に、調査に必要な確認事項や検索手順をまとめて「医薬品情報調査ツール(妊婦)」、「医薬品情報調査ツール(授乳婦)」を作成した。2.経験が浅い薬剤師5名を対象として妊婦授乳婦への服薬指導に関する模擬テストを実施し、各「調査ツール」の有用性を評価した。理解度や不安度は、評価スケールへの記入とその尺度を指標とした。【成果】各「調査ツール」の有用性を評価した結果、ツールの使用の有無によって調査時間に有意な差は認められなかったが、調査した資料の数は「調査ツール(妊婦)」の利用により5.4±2.3件から7.6±2.4件へ、「調査ツール(授乳婦)」の利用により5.2±2.3件から9.8±2.1件へと、いずれも有意に増加した(p<0.01)。また、収集した情報や服薬指導について、薬剤師自身の理解度や不安度を評価スケールにて測定した結果、各「調査ツール」の利用により、理解度は約10%から約80%へと上昇し、不安度は約90%から約50%へと減少した。本研究において作成した妊婦授乳婦への「医薬品情報調査ツール」を利用することで、経験の浅い薬剤師においても詳細な情報収集が可能となり、妊婦や授乳婦への服薬指導に有用であることが明らかとなった。