著者
山田 文男
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年10月から平成21年3月末の期間に、東京都23区を主として神奈川県・埼玉県・千葉県・群馬県・栃木県・茨城県内に存在する木造建物による理髪店の現地調査を行った。なお、調査中理髪店の隣や近くに同業種で建築形態が似ている美容店の存在が多くあったので、理髪店の近隣に美容店があった時は調査に加えた。調査数は理髪店が184棟、美容店が60棟の合計244棟であるが、理髪・美容店舗は毎月第2・3週が連休であることや、お客が来店中は基本的には内部の調査は出来ないので外観・内部の調査及び、経営者のヒアリングまでできたのは理髪店71棟、美容店7棟、合計78棟で全調査数の約32%である。理髪店は国民の生活衛生を担っているが、理容師法により建物の構造設置基準の遵守、衛生設備等の管理、保健所の年1回の定期検査等がある中で、理容師法上理髪店と美容店の同居営業は認められていない。「1000円カット」の店舗は理容師法の構造設置基準を逸脱していないことや、お客の需要により今後増加傾向にあるが、衛生設備の維持管理がおろそかになりがちなので許認可権のある保健所の監視が大切である。さらに、駅前に床面積が広く低料金のチェーン店の進出によりこれまでの住宅街の理髪店へのお客が減っていることや、経営者の高齢化で店を閉じていること。東京都や他の六県でも大正時代や戦前の木造建物が存在しているが、東京都内は当時のままの造作が残っている店舗はなかったが、埼玉県内では4棟存在していたことで、当時の理髪店の建物の構法・使用材・プランや洗髪器具や衛生器具及び椅子といった設備からも室内の造り方にも大変に影響を受けており、建物の外内部の使用材や衛生設備の状況を判断することにより、建物の建設年代や経過年数がおよそ把握できるようになった。そして、経営者のヒアリング及び建物内の実測ができたことで、木造建物による理髪店の歴史的変遷や建築学形態について詳細な成果を得られた。