著者
山脇 裕 川本 達雄
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.53-63, 1996-03-25
被引用文献数
7

矯正歯科臨床においてパラクルバーは舌の機能力を上顎大臼歯に伝達し, 上顎大臼歯の垂直的な矯正力に対するコントロールを行うことを目的として用いられる場合がある. 嚥下時に舌によりパラクルバーを介して上顎第一大臼歯に伝達される垂直力の大きさ, および特性を明確にすることを目的として本研究を行った. 被験者は正常咬合を有する22名で, 平均年齢は22.3歳であった. 測定装置はカンチレバー式ストレインゲージトランスデューサーを用いた口腔内センサー, ひずみ測定用直流増幅器およびオシログラフよりなる. 口腔内センサーは左側第一大臼歯の矯正バンドに設置した. パラクルバーはゴシュガリアンクイプとした. パラクルバーの右側脚部は大臼歯バンドに固定し, 左側脚部は遊離端として口腔内センサーに連結した. 測定条件は37で, 5mlの水の嚥下時, 意識下での唾液の嚥下時および180mlの水の嚥下時とした. 測定は波形, 力の大きさ, 持続時間および力の時間積分について行った. 測定の結果, 波形は二相性を示した. 5mlの水の嚥下時の垂直力の平均値は743.3g, 持続時間の平均値は1.30sec, 時間積分の平均値は396.2g・secであった. 唾液嚥下時の垂直力の平均値は816.0g, 持続時間の平均値は1.63sec, 時間積分の平均値は628.2g・secであった. 180mlの水の嚥下時の垂直力の平均値は925.2g, 持続時間の平均値は10.37sec, 時間積分の平均値は2,792.4g・secであった. 嚥下頻度に関する研究の結果より, パラクルバーに嚥下時に力が付加される頻度は非常に高いことが推測される. また, 本研究において得られた付加される垂直力の大きさおよび持続時間より考えパラクルバーは矯正歯科臨床において上顎大臼歯の垂直的コントロールに効果があることが示唆された.