著者
山野 清二郎
出版者
鎌倉女子大学
雑誌
鎌倉女子大学紀要 (ISSN:09199780)
巻号頁・発行日
no.20, pp.66-58, 2013-03-31

日本最古の漢詩集である 『懐風藻』 には、 「元日」 の題を持つ詩として、 藤原不比等と長屋王の作品が載せられている。 また、 その二首に加えて、 大伴旅人の 「初春侍宴」 という詩も、 同じく元日の作として認めてよいだろう。 しかし、 いずれの詩も、 制作された年代や情況などは明らかでなかった。 そこで、 改めて詩の内容を検討して、 作者の置かれた立場や、 同時代の史書 『続日本紀』 などを探ってみると、 不比等と旅人の詩が和銅三年正月、 長屋王の詩が同八年正月に作られたと判断できる。 これらの詩は、 官人のみならず、 異族とされる隼人や蝦夷の人々をも交えて盛大に催された元日の宴において詠じられたものであり、 その場の雰囲気や宴の変化の様相などを窺わせる貴重な作品群として評価できるだろう。
著者
山野 清二郎
出版者
鎌倉女子大学
雑誌
鎌倉女子大学紀要 (ISSN:09199780)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.142-135, 2008-03

河島皇子は大津皇子と莫逆の契りを交わしながら、大津皇子の謀反を密告した人物として『懐風藻』伝記は扱っている。一般に『懐風藻』の伝記は詩作品と関連性を有しているのに、『懐風藻』中に遺る彼の詩「山斎」は、この事件とは関係を持たない春の宴の詩と見られて来た。しかるに、語句の検証により、その詩は事件一、二ヶ月前の作と考えられ、伝の記述とつながってくることが分かる。大津皇子との親交によって、河島皇子はむしろ朝廷側から疑惑を招いた可能性があり、彼は莫逆の契りを守り、大津皇子を弁護することによって、かえって密告者の熔印を押される結果となったのであろうと思われる。